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崩壊の顛末(てんまつ)

 ものづくりに絶対的な自信を持つ工場がある。これをH工場と呼ぼう。H工場には、経験が豊富で腕の良い作業者たちがそろっており、自分たちの仕事のやり方には強い自信を持っていた。そのため、H工場は生産現場を最も効率良く稼働させることを最優先し、開発課や資材課などの関連部門は、力を合わせて生産現場をサポートしていた。

 こうした背景もあり、H工場では生産現場を擁する製造課の発言力が非常に強かった。製造課の考える生産計画に少しでも支障を来すようなトラブルが発生すると、製造課の課長やベテラン作業者がトラブルに関わった担当者を呼び付け、「何をやってるんだ!」と激しく叱責していた。そのため、どの部門も常に製造課の顔色を伺いながら、何とか製造課に叱られないようにと業務を進めていた。

 ある時、海外から調達している重要な材料が予定通りに届かないというトラブルが発生した。本来であれば、材料メーカーの現地工場を出発して港に向かっているはずが、工場で生産中であることが判明したのだ。このままでは生産計画を守れないと、資材課の調達担当者は慌てて調査を始めた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 材料メーカーから入った情報では、現地の生産工場において道路の寸断が発生し、従業員の通勤や資材搬入などの物流に影響が及び、生産の大幅な遅延に至ったとのことだった。現地の混乱は今も続いており、材料メーカーでさえ生産の完了時期を明確に答えられない状態であった。

 調達担当者は、材料メーカーに対して引き続き現地の状況を逐一報告するように依頼すると同時に、そもそも現地で道路の寸断と生産の遅延というトラブルが発生した時点で、すぐに連絡してほしかったとクレームを入れた。しかし、“後の祭り”。材料メーカーは、できる限り速やかに事態を復旧させて生産が完了後、直ちに空輸で納品するので、もう少し待ってくれと言うばかりであった。

 資材課から報告を受けた製造課は激怒した。既に、生産に向けて最も効率の良い生産順序を考えて問題なく実行できるように準備していたからだ。にもかかわらず、突然の納品遅延の発覚。製造課の課長は「計画が崩れてしまったじゃないか。材料メーカーをもっときちんと管理しろよ。何やってるんだ!」と調達担当者を締め上げた。だが、この個人攻撃のようなあからさまな叱責は、資材課全員に大きな嫌悪感をもたらした。結局、これが資材課と製造課の間に深い溝ができるきっかけとなってしまった。