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崩壊の顛末

 少量の注文生産から事業を開拓し、その努力が実って量産品に手を広げることができた工場がある。これをK工場と呼ぼう。K工場では誠実な顧客対応が功を奏し、かつては数台単位の少量生産だったが、ついに数千台を超える大量生産の受注を得ることができた。

 K工場はこれまで顧客の要望に合わせた製品開発を行い、技術的な評価は全て顧客に委ねてきた。顧客の指示通りに作った試作品を納品し、その評価を顧客に実施してもらうといった仕事の進め方をしてきたのだ。ところが、今回受注した量産品は試作だけではなく、評価までもK工場で行うことが顧客から求められた。せっかく得られたチャンスを生かそうと、現場の人たちは積極的にその新製品の開発に力を注ぐようになった。

 しばらくして、製品の重要な特性を決める機構の部分で2種類の設計案が開発部門から提示された。顧客はどちらが良いのかK工場としての見解を出すように要望を出した。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 顧客からは評価の内容に対する具体的な指示はなかった。そこで、K工場はそれまで顧客が実施してきた評価の内容について断片的に聞きかじった知識から評価方針を決めた。かつて2種類の設計案が検討対象になった時、顧客からそれぞれ5台の試作品を作るように要求されたことがあった。そこで、今回も「設計案1」と「設計案2」で5台ずつ試作品を作り、両試作品の特性を評価しようと考えた。

 こうして、設計案1と設計案2でそれぞれ5つの試作品を作って特性を評価した結果、ある重要な特性について「設計案1での平均値は10.0」、「設計案2での平均値は10.2」となった。この結果をもって、K工場は「特性値の良い設計案2の方がより優位なものである」と判断し、顧客にその結果を報告した。

 ところが、顧客からは「この結果では適切な評価ができない」と厳しい指摘が返ってきた。「設計案1と設計案2の条件がそろっていない」「統計的に評価されていない」など、評価は一からやり直しに近い状態だった。K工場の担当者はどうすればよいか途方に暮れてしまい、結局は顧客が評価の仕方を手取り足取り指導することになってしまった。顧客は「K工場には量産品を受注する実力はない。発注は控えるべきだ」と判断。最終的にK工場と顧客は決裂し、K工場は量産品の受注を失ってしまった。