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崩壊の顛末

 市場の厳しい要求に応えるために新しい生産ラインの構築に奔走した工場がある。これをL工場と呼ぼう。このL工場には、新しい生産ラインの立ち上げに貢献した優秀な現場リーダーがいた。工場の最高責任者である工場長と二人三脚となって活躍。工場長にとって「同じ釜の飯」を食いながら苦楽を共にしてきた腹心とも言える存在だ。

 この現場リーダーは、作業のスキルはもちろん、現場を運営するスキルも高くて活発だった。自ら考えて自ら動く非常に優秀な人物で、その優れた能力は、新しい生産ラインの立ち上げでもいかんなく発揮された。さまざまな難題に直面しても、ひるむことなく常に「どうすればうまくいくのか」を考え抜く。時には臨機応変にやり方を変えながら目標の達成に向けて取り組み、当初に予定した以上の仕上がりで新しい生産ラインの立ち上げに成功した。

 こうした実績があるため、苦楽を共にしてきた工場長はこの現場リーダーに全幅の信頼を寄せていた。そのため、工場長は自らが工場管理に注力する一方で、生産活動の実務における采配はこの現場リーダーに全てを委ねていた。こうしたうまい役割分担が出来上がり、新しい生産ラインは順調に稼働を始めた。ところが、それから数年がたった頃、良かったはずのL工場でいささか困った状況が発生するようになった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 監督者としての立場になっていた現場リーダーは、とにかく目標を達成することに対して、並々ならぬ強い意識を持っていた。工場の監督者として好ましい姿勢である。この姿勢を貫くことで、現場で日々発生する問題や、他部門との意見の相違などの問題を解決してきたのだ。やがて、現場リーダーは工場の中で大きな発言力を持つに至った。しかしその一方で、現場からは不満の声が聞こえるようになってきた。現場リーダーの「独断専行が目に余る」というのだ。

 例えば、A案かB案かで悩み、現場から「開発部門の意見を聞くべきだ」とか「工場長の判断を仰ぐべきだ」とかいった意見が出ても、この現場リーダーは「俺が決める」と独断で物事を決めていた。不満を持った現場は工場長に、「現場リーダーの独断が過ぎるので、このままでは他の部門との関係も悪化しかねない」と訴えるのだが、工場長は「まあ、彼も考えがあってのことだろうから」と曖昧な返答に終始するのみだった。

 他にも、この現場リーダーは目的を達成するためなら、多少のルール違反を犯すこともやむを得ないと考える節があった。現場が決められた手順を守ろうとしても、「そんな融通の利かないことをしていては間に合わない」などと言ってルールを平気で破ってしまうのだ。

 現場は日ごろからルールを守れと言われているにもかかわらず、現場リーダーは好き勝手なことをやっている。それを工場長に伝えても、昔からの古い付き合い故に、どうしても指導が甘くなる。こうしたことを繰り返した揚げ句、現場は現場リーダーも工場長も信頼しなくなってしまった。