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崩壊の顛末(てんまつ)

 顧客からの需要に恵まれ、日々、慌ただしく生産と出荷を続けている工場がある。これをM工場と呼ぼう。このM工場では、増加する顧客からの需要に対応するため、生産能力を急拡大すべく奮闘していた。

 圧倒的に足りなくなった作業者を補うために積極的な人材の募集をかけてはいるものの、時節柄もあって応募者は少なく、なかなか採用には至らなかった。そのため、既存の作業者と設備で何とか生産量を増やせるように、日々の改善活動に積極的に取り組んでいた。技術部門は設備や治工具の改善、製造部門は作業方法の改善と、あらゆる側面から生産量アップの手を打った。

 こうした取り組みが実を結び、顧客が要求する生産の急拡大に何とか対応することができた。生産の極端なピークはそれほど長くは続かなかったが、かなり無理をしながらも増産に応じた。その結果、顧客からの強い信頼を得ることができ、その後も従来よりも多くの発注数量を安定的に得られる結果となった。

 ところが、生産の大きなピークを越えたM工場の現場のあちらこちらに異変が生じるようになった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 例えば、「チョイ置き」だ。これは、治具や工具を定められた場所に戻さず、その辺に置いておくことである。急場をしのぐために、段取り替えの現場に治具や工具が無秩序に散乱していた。もともとは使いやすくするために置き場所を定めているのだが、チョイ置きが徐々に目立つようになっていった。使いたい作業者は、その都度治具や工具を探し回らなければならない。

 それだけではない。作業時間の短縮を狙って作業手順を変更したものの、いつの間にか以前と同じ作業手順に戻っていたり、新たに定めた作業手順とは異なる作業を行う人が出てきたり……。

 気がつくと、M工場ではルール違反が常態化し、生産性が低下してしまった。