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崩壊の顛末(てんまつ)

 ベテラン社員から中堅・若手社員へと世代交代が進みつつある工場がある。これをQ工場と呼ぼう。このQ工場は業績の低迷のため、長い期間、新しい社員を採用することができず、雇用延長などを続けながら現場のベテラン社員が生産活動を担っていた。そのため、社員の大半が50歳以上という極めていびつな年齢構成になっていた。

 この問題を深刻に受け止めた経営者は、新入社員の採用再開や若い中堅人材の中途採用など、積極的な若返り施策を打ち出した。これにより、10年ほどの歳月をへて、ようやく現場の中心となれる力量を持つ中堅の人材が育ってきた。

 こうした中、ある優秀な中堅社員のA氏が、その行動力や技術力を評価されて課長に抜てきされた。Q工場の中堅・若手社員の中には、ベテラン社員の優れた技術や経験に基づくアドバイスをとても貴重だと考える人がいる一方で、「仕事のやり方を詳しく教えてくれない」、「理由も説明せずに頭ごなしに指示をしてくる」などマイナス面を強く感じている人もたくさんいた。そのため、ベテラン社員にネガティブな思いを持っている中堅・若手社員の間では、自分たちと年齢が近いA氏が課長に抜てきされたことで、工場は大きく変わるのではないかという期待感が高まった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 だが、ベテラン社員は内心穏やかではなかった。A氏はベテラン社員に依存している生産工程を、中堅・若手社員が中心になって活躍できるように変革したいと考えていたからだ。

 一方のA氏は、ベテラン社員の心情を理解しており、常に先輩たちの顔を立てることを忘れないように心掛け、自分が実現したいことを「ぜひ、先輩方にも理解してほしい」と粘り強く説得を続けていた。ベテラン社員にとっても、自分が中堅・若手社員の育成に必要とされることは悪い話ではなく、協力的な姿勢を示すベテラン社員も徐々に増えていった。

 しかし、一部のベテラン社員は、自分よりもはるかに若い社員が課長になったことと、その課長が自分たちに何かにつけて意見してくることを快く思っていなかった。そのため、表向きは協力的な姿勢を見せてはいるものの、裏ではA氏の批判を繰り広げていた。その批判の急先鋒(せんぽう)は「現場のドン」と評されていた人物だった。

 そのことを知ったA氏は、さすがに先輩といえども看過できないと判断。事実を確認した上で、現場のドンと呼ばれるベテラン社員を生産現場から外すという決断を下した。その決断の背景には、他の多くの社員が自分に協力的だと確信したこともあった。

 ところが、その後の展開は、A氏の想定外だった。配置転換された現場のドンが公然とA氏批判を始め、それに呼応してベテラン社員の離反が相次いだのだ。さらには、A氏を支持していた中堅・若手社員も、ベテラン社員の強い抵抗を目の当たりにして、A氏から距離を取り始めてしまった。結局、A氏に味方をする人はいなくなり、やがて失意のままA氏は職場を去っていった。