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崩壊の顛末(てんまつ)

 DX(デジタル変革)による業務改革を推進している工場がある。これをV工場と呼ぼう。このV工場は、今のトレンドである製造業のDXの波に乗り遅れまいと、さまざまな工程で記録書類を電子化する取り組みを進めていた。タブレット端末の低価格化をきっかけに各工程にタブレット端末を配置し、作業記録の入力や作業指示の表示などを進めようというものだ。うまくいけば生産性の大きな改善が期待できる。

 その中でテーマに上がったのが、作業記録表の運用の合理化だ。従来は第1工程の班長が作業記録表の内容を確認した後、それを第2工程の班長に手渡していた。そもそも、紙の作業記録をわざわざ持っていくことが手間であり、さらに手書きの書類では数十枚に1枚程度の割合で記入ミスや判読不能のミスが生じていた。これをタブレット端末の入力に切り替えることで紙を運ぶ手間がなくなり、ミスの発生も大きく低減できる。

 加えて、班長がより価値の高い仕事に時間を割けるようになる。班長は日々時間をかけてデータを入力・集計している。それが、自分のパソコン上で社内ネットワークに置かれた所定のファイルを開くと、集計済みのデータが簡単に見られるように変わるのだ。これによって班長は、データの集計結果を踏まえて現場の異常を把握し、適切に対処することができるようになる。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 まさにいいことずくめだと班長は大喜びでDXを進めた。ところが、気がつくと現場ではこれまで経験したことがない問題が次から次へと発生した。それらの1つひとつの原因を考え、対策を練っては実行するのだが、それが済むとまた別の問題が発生する。DXで仕事を減らすはずが、この作業記録表の電子化によって、逆に現場ではこれまでにはなかったトラブルが多発するようになった。班長はそれらの対策に追われ、付加価値の高い業務に取りかかれるどころか、トラブル対応の時間が増える一方となってしまった。