岡山県真庭市は2021年2月22日、市北部の蒜山(ひるぜん)高原で建設中の「真庭市蒜山観光文化発信拠点施設」を中核に官民共同で展開する環境保全ブランドの詳細を公表した。
隈研吾氏がデザイン監修を担ったCLT(直交集成板)による建物の「移築プロジェクト」と一体となるものだ。記者会見に出席した隈氏は改めて、自然との共生を図る同プロジェクトの意義を語った。施設の開業は21年7月を予定している。
蒜山高原の敷地には、「CLT PARK HARUMI(CLTパークハルミ)」として東京・晴海に一度建てられたパビリオン棟や2棟構成の展示棟などを移築する。CLT PARK HARUMIは、三菱地所が真庭市の協力の下、建物の再利用を前提に自社所有地に建設したものだ。19年12月から20年9月までの期間限定で運用し、期間終了後に解体した。
元のパビリオン棟と展示棟は、パネル化したCLTを解体容易な構法によって組み上げ、移送・再築できる建物としたものだ。シンボルとなるパビリオン棟には厚さ21cmのCLTパネルを360枚使用。パネルのユニットを鉄骨柱に接合し、高さ約18mの直方体状の構造物としていた。
蒜山高原の敷地では、基本的に元のまま再築する。晴海における建設時との違いとしては、展示棟の2階テラスにアクセスするための屋外階段を設置。観光客向けのビジターセンターやショップ、隈氏が手掛けたプロジェクトの模型などを展示するミュージアムとして用いる。さらに、地域の公共交通を補完し、自転車利用の利便性を高めるためのサイクリングセンターとして、新たにCLTによる建物を追加する。移築後の設計には改めて隈研吾建築都市設計事務所(東京・港)が携わり、施工は梶岡建設(岡山県真庭市)と三木工務店(同)の共同企業体(JV)が担当する。
パネル化によって短工期を実現したパビリオン棟は、晴海における建設時は基礎工事を含めて約2.5カ月で完成させた。真庭市産業政策課によると、「建て方は始まっている。晴海の際と同程度の工期を想定し、年度内に完成させる予定だ」という。移築に関する費用は約17億円(20年度当初予算)を見込む。
ローカルSDGs戦略「地域循環共生圏」の取り組みに
「木材のまち」を標ぼうする真庭市は、CLTをはじめとする真庭産材のPRと販路拡大に力を入れている。今回プロジェクトのCLTパネルには真庭産のヒノキを用い、市内に本社を置く銘建工業が製造面で協力した。
蒜山高原における拠点開設は、木材のような産品にとどまらず様々な地域資源のビジネス活用に目を向け、自力・分散型のサステナブルな社会づくりを進めるためのものだ。環境省が推進するローカルSDGs(持続可能な開発目標)戦略「地域循環共生圏」の取り組みと連携している。
今回、地方と都市の連携を重視し、阪急阪神百貨店と共に環境保全を打ち出すブランド「GREENable(グリーナブル)」を立ち上げた。22年には、同ブランドのコンセプトを展開する売り場を阪急うめだ本店(大阪市北区)に新設する予定だ。
阪急阪神百貨店の山口俊比古代表取締役社長はブランド構築に関し、2月22日のオンライン記者会見で次のように語った。
「蒜山高原での体験をきっかけにサステナブルな暮らしに共感した人が、日常の都市生活にその思いを取り入れる。逆に、都市部の売り場やイベント体験をきっかけに関心を持った人が、蒜山高原に出向いて環境保全活動に参加する。地方と都市の連携で、そうした新たな人の流れをつくりたい。行政と民間、異業種間といった垣根を越えて取り組めば効果が増幅される」