東京・六本木にある国立新美術館で、2021年2月3日から同年5月10日まで「佐藤可士和展」が開かれている。日本を代表するクリエーティブディレクターであるSAMURAI(サムライ、東京・渋谷)の佐藤可士和氏の、約30年に及ぶ活動を紹介する過去最大規模の個展だ。
そんな中、3月2日には、建築家の隈研吾氏とタッグを組んだ「団地の未来プロジェクト」を総括するトークセッションが開かれた。都市再生機構(UR都市機構)が1970年代から開発してきた横浜市磯子区にある「洋光台団地」をリニューアルし、活気を取り戻そうという壮大なプロジェクトである。
佐藤氏はキャリアの3分の1に相当する約10年間、団地の未来プロジェクトに関わってきた。2011年にプロジェクトの前身となる「アドバイザー会議」がスタート。その後は、異なるジャンルの人たちとのディスカッション「TALKING(トーキング)」や、地域住民とのワークショップなどを経て、実施プランを練り上げた。
18年にようやく最初の成果物が完成。続いて20年にも、複数のリニューアルが完了している。
佐藤氏にとって過去最長の仕事であり、洋光台団地の再整備はこれからも続く。UR都市機構の中島正弘理事長によれば、21年には住棟の建て替えも始めるという。当面、プロジェクトに終わりはない。
ただ、開始から10年という節目に、ちょうど佐藤可士和展の開催が重なった。そこで1つの区切りとして、「中間報告的にプロジェクトを総括することにした。10年間撮りためたプロジェクトムービーを編集し、活動記録を『作品』として展覧会で紹介する」(佐藤氏)。この日は報道陣向けのムービーのお披露目会と、この10年を振り返る佐藤氏や隈氏ら関係者によるトークが開かれた。
続けて佐藤氏は中島理事長と共に、日経クロステックの個別取材にも応じた。その場で佐藤氏は今話題の「建築物や内装の意匠登録」にも触れながら、団地の未来プロジェクトについて熱く語った。
佐藤氏はプロジェクトディレクターとして、「プロジェクトそのものをブランディングしてきた」と語る。TALKINGのようなオープンイノベーション型のプロジェクト進行も、佐藤氏によるブランディングの一環だ。
プロジェクトのロゴも用意した。団地の「団」の漢字を基に、「四角い建物が立ち並ぶ団地の堅いイメージを『角』を丸くして柔らかくし、その中にアイデアを表す『丸』を1つでも多く『プラス』していき、新しい暮らしをデザインする」という思いを込めた。
ディレクターアーキテクトの隈氏は、ロゴを初めて見た日のことを忘れない。「このプロジェクトは必ず成功すると確信した」という。
たくさんの人が関わるプロジェクトには、象徴となる御旗が必要だと感じていた。それが「団」のロゴに集約されていることに感心したという。「団地やらない?」と佐藤氏に声をかけたのは隈氏であり、起用が的中した。