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 もっぱら容積率の緩和に目が向けられてきた大都市再生は、そろそろ岐路に差し掛かっているのではないか。新たな制度が生まれる兆しがないのであれば、現在の都市再生特別措置法の運用を工夫し、新たな問題に立ち向かっていけばよい。後編では、より地方公共団体として自立した都市再生の可能性を、元・国土交通省国土交通政策研究所所長の佐々木晶二氏に解説してもらう。

前編 都心大改造に拍車かけた「都市再生特区」、大規模開発の未来をどうする?

虎ノ門二丁目地区(虎ノ門病院等)、虎ノ門四丁目地区(東京ワールドゲート)、虎ノ門一丁目3・17地区(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー等)、虎ノ門・麻布台地区、虎ノ門一・二丁目地区((仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー)といった都市再生特別地区が集まる、東京・港区の虎ノ門エリア(写真:ITイメージング)
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虎ノ門二丁目地区(虎ノ門病院等)、虎ノ門四丁目地区(東京ワールドゲート)、虎ノ門一丁目3・17地区(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー等)、虎ノ門・麻布台地区、虎ノ門一・二丁目地区((仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー)といった都市再生特別地区が集まる、東京・港区の虎ノ門エリア(写真:ITイメージング)

今後ハードの供給が落ち着いたとき、都市再生特別措置法の活用の道はありますか?

 都市再生特別措置法の近年の改正動向や政府全体における地方部重視の政策から見る限り、国の法律などにおいて、東京など大都市再生のための抜本的な制度改正が今後行われることはあまり期待できません。よって現行法の運用で、目の前にある課題を解決する視点が必要になります。特にソフト面の扱いは重要になってくるはずです。

 強く意識したい点として、1999年に制定された「地方分権一括法」によって、通達などによる国からの関与が廃止され、都市計画法および建築基準法に基づく事務は原則、自治事務となっています。また、「地方自治法」の第2条第13項には、地域の実情に応じた地方公共団体の事務処理──要は自治事務に対して国は、それができるよう特別の配慮しなければならない、と明文化されています。つまり、東京都をはじめとする地方公共団体が、大都市再生の取り組みを独自に改善していける環境が整備されているわけです。これを都市再生特別措置法の運用などに反映させる余地は十分にあります。

具体的には、どのような方策が現れ得るのか、あるいは何をなし得るのですか?

 都市再生特別地区の運用を中心に、東京都など地方公共団体が今後取り得る政策について提案を試みたいと思います。

 先述したように、制度の運用上の課題として、まず「規制緩和の公平さ、および公正さを確保しきてれていない」という点が指摘されています。しかし、公平性、公正性という観点を強調し過ぎ、都市再生特別地区の持つ自由裁量性の効用を否定してしまったら、角を矯(た)めて牛を殺す結果になりかねません。

 これについては、安藤準也ほか(注1)が指摘しているとおり、ドイツ、英国などの取り組みが参考になります。

 いずれの国も自由裁量性を持つ都市計画制度を運用していますが、外部の専門家による審査や住民参加など決定プロセスにおける手続きの充実を図っています。日本でも同様に、地方公共団体は都市再生特別地区の決定プロセスにおける手続きを充実させると共に、その内容を明記し、事前に公表していくことが重要です。プロセスの改善により、「事業の全体期間が必ずしも短縮化されていない」という課題の解決も可能になるはずです。

 実は本来、「ソフトによって公共貢献を担保する手法が欠けている」という課題についても、ドイツの都市計画契約や英国の計画協定などの制度にならったものとするのが望ましいのです。しかし、当面、新たな法制度化は期待できませんから、地方公共団体の側で工夫し、法制度上の位置付けを高めるのが適切な道です。これまで事実上、国からの技術的助言などの指針を基準にして地方公共団体と事業者間が契約していた状況を見直し、地方公共団体と事業者双方が、より自主独立性の高い判断を行う事業を進められるようにするわけです。