2016年4月の熊本地震から5年。地震で大きな被害を受けた熊本城天守閣が復旧を果たした。外観を被災前の姿に戻すだけでなく、耐震補強やバリアフリー化も併せて実施する難工事が21年3月24日に完了。熊本市は同年4月26日から天守閣内部の一般公開を始める。
熊本城の天守閣は1607年に完成した後、1877年の西南戦争の際に焼失。1960年に鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造などで現在の姿に再建された。大天守は地下1階・地上6階建て、高さ約30mで、延べ面積は1759m2。小天守は地下1階・地上4階建て、高さ約20mで、延べ面積は1309m2だ。
熊本地震では屋根から多くの瓦が落下し、石垣が崩れた。内部では鉄骨の柱脚が破損したほか、鉄筋コンクリートの壁にひび割れが生じた。
市は天守閣を復興のシンボルと位置付けて、復旧を最優先に進めてきた。設計・施工を担ったのは大林組。事業費は約86億円だ。
復旧工事では石垣を積み直したり、外壁や瓦を修復したりした。耐震ブレースの設置や炭素繊維による梁(はり)の補強といった安全対策も施している。鉄骨(S)造で築かれていた大天守の最上階(6階)は被害が大きく、この階のみいったん撤去し、同じくS造で再構築した。
天守閣内部の階段付近などには制振ダンパーを設置した。1960年の再建時に構築した長さ約48mの杭(くい)に作用する地震力を低減するためだ。制振ダンパーは3種類。オイルダンパーを3カ所、摩擦力を利用したブレーキダンパーを11カ所、この2つを交差させた「クロスダンパー」を18カ所に設置した。
クロスダンパーは、大林組が開発した独自技術。ブレーキダンパーの主材に穴を開け、オイルダンパーを貫通させたものだ。内部に展示施設を備え、スペースに余裕がない天守閣でも場所をとらずに設置できるとして採用された。
このほか、瓦の下地を湿式工法から乾式工法に変更し、屋根を軽量化したのも地震対策の1つだ。さらに、小天守に跳ね出し架構を採用し、石垣と躯体(くたい)を分離した。以前は小天守の外周の一部が石垣に載っていたため、石垣崩壊によって小天守1階の床が沈下するなどの被害が出た。