福岡県太宰府市にある太宰府天満宮は2023年5月12日、同年5月23日から開始する124年ぶりの「御本殿」大改修に先立ち、3年間限定で使用する「仮殿」が完成したと発表した。国の重要文化財である御本殿の大改修は約3年をかけて実施する計画で、改修期間中は御本殿前に建設した仮殿で参拝者を迎える。大改修は26年ごろに工事を完了する予定だ。
3年間限定の仮殿は、建築家の藤本壮介氏が代表取締役を務める藤本壮介建築設計事務所(東京・江東)がデザイン・設計を手掛けた。太宰府天満宮の周辺に広がる豊かな自然が御本殿前に飛翔し、屋根に森が現れるというコンセプトで仮殿をデザインしたという。お椀(わん)のような曲面の屋根に植物を載せるという大胆な仮殿になった。屋根の曲面がそのまま、仮殿内部の天井の曲面にもなっている。構造は鉄骨造で、平屋建てだ。
そもそも仮殿とは、御祭神の御神霊(おみたま)を仮安置するために設ける御社殿のことだ。同年5月13日に実施した仮殿遷座祭の後、同14日から神事や参拝が仮殿で始まった。
屋根の上の植物には、太宰府天満宮の花守によって境内地で育てられた梅が含まれている。太宰府には古くから、菅原道真公(天神さま)を慕う梅の木が一夜のうちに太宰府まで飛んできたという「飛梅(とびうめ)伝説」が残る。梅を含め、周辺の自然環境とともに、季節や天候によって仮殿は様々な移ろいを見せる。
藤本氏は「伝統的でありながら、同時に現代的で未来に続く仮殿とは何か、この場所にふさわしいものは何かを、約1年かけて模型で検証してきた」と語る。その過程で、御本殿の大屋根に着目。屋根を再解釈し、天神の杜(もり)との調和を重視した「屋根ではない屋根」として「森が浮いている」デザインにたどり着いたという。
内部には丸い天窓を設けた。そこから空だけでなく、屋根の森を見えるようにしている。