前橋市で、著名な建築家によるユニークな施設の設計ラッシュが続いている。前橋出身で、同市の活性化プロジェクトを推進する、眼鏡大手ジンズホールディングスの代表取締役CEO(最高経営責任者)である田中仁氏を筆頭に、前橋の再生に尽力する人たちの呼びかけに多くの建築家が応えた格好だ。
ここ半年で、施設が続けて開業している。手掛けた建築家は、藤本壮介氏や永山祐子氏だ。そして現在、平田晃久氏や、駒田剛司氏と由香氏の夫妻が新たな施設を設計しており、日経クロステックの取材でプロジェクトの詳細が明らかになってきた。
共通するのは前橋の中心街、通称「まちなか」に、共同住宅を備えたシンボリックな施設の設計を任されていることだ。完成時期も共に、2022年を予定している。
平田氏が主宰する平田晃久建築設計事務所(東京・港)は、広場と共同住宅が合体した複合施設「Qのひろば再開発プロジェクト」を設計している。地上4階建てで、1階には誰でも利用でき通り抜けられる広場とそこに面する店舗をつくる。2~4階は分譲住宅になる予定である。
発注者であるまちの開発舎(前橋市)は、地域コミュニティーの創出活動をしている一般社団法人前橋まちなかエージェンシーの代表理事である橋本薫氏が代表取締役を務める会社だ。橋本氏は地元で設計事務所を主宰しつつ、田中氏と共に前橋で様々なプロジェクトを推進している。
Qのひろば再開発プロジェクトの計画地は、スーパーマーケット長崎屋の跡地で「Qのひろば」として使われてきた場所である。現在は平置き駐車場になっている遊休地だ。敷地面積は約1240m2、延べ面積は約1980m2。
一方、駒田建築設計事務所(東京・江戸川)を共同主宰する駒田両氏は、賃貸住宅と店舗から成る複合施設「弁天アパートメンツ(仮称)」を設計中である。こちらは田中氏がオーナーだ。まちなかの北側を南北に貫くアーケード街に対して狭い間口だけが接する細長い敷地に、地上6階建ての施設をつくる。
1階はアーケード街につながる通路と店舗、2~6階は若者の入居を想定した賃貸住宅とする。敷地面積は約200m2、延べ面積は約590m2。
平田氏と駒田両氏がそれぞれ設計している施設には、幾つかの共通点がある。まず「前橋のシンボルになり、街を変えるだけのインパクトがある建物」を目指していること。同時に、若者がまちなかに住みたくなる居住空間を設けること。そして、まちなか活性化の指針の1つになっている「グリーン」を積極的に取り入れていることだ。平田氏も駒田両氏も、緑豊かな共同住宅の設計には定評がある。
これらの要件は、藤本氏や永山氏が設計した施設にも当てはまる。20年12月に開業した「白井屋ホテル/SHIROIYA HOTEL」は、オーナーの田中氏が藤本壮介建築設計事務所(東京・江東)に設計を依頼したホテルだ。館内は大きな吹き抜け空間に緑があふれ、新棟は「緑の丘」の中に客室を埋め込んだ。
21年4月には永山祐子建築設計(東京・新宿)が設計した、ジンズ最大の延べ面積を持つ施設「JINS PARK(ジンズ パーク)」がオープンした。眼鏡店と新業態のベーカリーカフェを融合した店舗と、公園のような芝生の屋外広場を持つ、まさにパークのような場所になっている。