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 再々開発を終えた「新風館」(京都市)が、2020年6月11日に開業した。「新風館」は、延べ面積2万5611m2の複合商業施設だ。「旧京都中央電話局」(1926年完成、京都市指定・登録文化財第1号)を生かした既存棟と、隈研吾氏がデザイン監修し、NTTファシリティーズが設計を手掛けた新築棟から成る。当初は4月開業を予定していたが、コロナ禍の影響で延期となり、感染対策などを整えた上で、約2カ月遅れて開業に至った。

烏丸通から見た「新風館」。地上3階建ての京都市登録文化財「旧京都中央電話局」と、背後の新築棟から成る。右手は烏丸通のエントランス。東側の東洞院通とはパサージュで結ばれ、相互に通り抜けできる。京都市営地下鉄の烏丸御池駅とはエレベーターで直結する(写真:Forward Stroke)
烏丸通から見た「新風館」。地上3階建ての京都市登録文化財「旧京都中央電話局」と、背後の新築棟から成る。右手は烏丸通のエントランス。東側の東洞院通とはパサージュで結ばれ、相互に通り抜けできる。京都市営地下鉄の烏丸御池駅とはエレベーターで直結する(写真:Forward Stroke)
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 施設のメインとなるのが、アジア初上陸ブランドの「エースホテル京都」だ。同じく6月11日にプレオープン(グランドオープンは2020年後半の予定)を迎えた。1階のショップやカフェ、ポップアップスペースなど計20店のテナントと、地下1階のミニシアター「アップリンク京都」もオープンした。物販店やミニシアターはいずれも京都初出店(一部新業態)だ。歴史が刻まれた外観と、魅力ある店舗の構成で、地域の文化発信拠点となることを目指す。

「エースホテル京都」の1階ロビー内観。右手奥にあるコーヒーショップの入り口周りは「旧京都中央電話局」の外壁を残した。隈研吾氏デザインによる木組み架構に、コミューンデザインがメタルフレームの照明器具を融合させた(写真:Forward Stroke)
「エースホテル京都」の1階ロビー内観。右手奥にあるコーヒーショップの入り口周りは「旧京都中央電話局」の外壁を残した。隈研吾氏デザインによる木組み架構に、コミューンデザインがメタルフレームの照明器具を融合させた(写真:Forward Stroke)
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 もともと「新風館」は、「旧京都中央電話局」の再開発プロジェクトとして01年に開業した。電話局は、旧逓信省の吉田鉄郎が設計した建物だ。01年の再開発で、改修設計を手掛けたのはNTTファシリティーズとリチャード・ロジャース・パートナーシップ・ジャパンだった。

 01年の再開発は、烏丸御池に商機能を移植することで街の魅力を高め、エリアの集客を促す目的で、暫定開発として先駆的に計画したものだった。計画当初から、10年後の再々開発を見据えていたが、世界同時恐慌などで景況が変わり、結果的には時期尚早という判断で16年まで営業を続けた。

 NTT都市開発商業事業本部の中村高士商業・ホテル開発部長は、再々開発について次のように説明する。「隣接する四条河原町や三条通は商業圏として魅力あるエリアだが、01年以前の烏丸御池はビジネス街のイメージが強かった。『新風館』の名前は、オフィス街に新商圏を創出し、街に新たな風を吹き込む施設として命名した。再々開発に当たる今回のプロジェクトでもその名前を継承した」

クリンプ金網のスクリーンで覆われた東面・南面の外観と、東洞院通側のエントランス(写真:Forward Stroke)
クリンプ金網のスクリーンで覆われた東面・南面の外観と、東洞院通側のエントランス(写真:Forward Stroke)
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中庭から見た新築棟。開口部にはランダムな角度の銅色ルーバーを設けた。250×500㎜の木組み架構が建物の内外を貫く(写真:Forward Stroke)
中庭から見た新築棟。開口部にはランダムな角度の銅色ルーバーを設けた。250×500㎜の木組み架構が建物の内外を貫く(写真:Forward Stroke)
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 その間、NTT都市開発は10年に、隣接する街区に商業施設「ラクエ四条烏丸(アーバンネット四条烏丸ビル)」を開業。01年から継続していた調査で、烏丸御池に人通りが増えていることを確認し、商業エリアとしての認識も高まってきた判断から、17年に今回の再々開発に踏み切った。

 築90年以上の「旧京都中央電話局」を生かす再々開発であり、既存の建物の保存状態の調査や修繕には十分な時間をかけた。

 NTT都市開発ビルサービス商業事業推進部の小林裕之氏は、こう話す。「01年の再開発時に耐震補強をしていたが、今回、改めて調査すると鉄筋の経年劣化が見られ、躯体に関してはこれを機に全面的に修復・改修を行った。外壁のレンガタイルを剥がして再利用可能なものを残し、経年変化に合わせた5パターンの復元タイルを焼成。新旧が不自然に見えないようにランダムに配し、ピンネット工法で張り替えた」

 外装では、L字形の既存建築形状を生かし、中庭を中心に姉小路通、烏丸通、東洞院通の三つの通りに面して、それぞれ趣の異なるエントランスを設け、中庭や通り庭でつなぎ、通り抜け可能なプランを採用した。

 特に、烏丸通、東洞院通の東西の回遊を促すために、戦略的に設けた「パサージュ」は、京都の路地「辻子(づし)」を模して計画し、小路を散策するような自然な通り抜け感をつくりだした。

烏丸通側エントランス側から見た中庭。写真は竣工時に撮影したもので、その後、中庭には美術作家の名和晃平氏による大型彫刻作品を設置した(写真:Forward Stroke)
烏丸通側エントランス側から見た中庭。写真は竣工時に撮影したもので、その後、中庭には美術作家の名和晃平氏による大型彫刻作品を設置した(写真:Forward Stroke)
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姉小路通側から見た中庭。木組みがガラス開口部から外部へと突き抜ける(写真:Forward Stroke)
姉小路通側から見た中庭。木組みがガラス開口部から外部へと突き抜ける(写真:Forward Stroke)
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