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 岡山県真庭市は2021年7月15日、市が推進する自然とサステナブルの価値を体感できる施設「GREENable HIRUZEN(グリーナブル ヒルゼン)」を同市の蒜山高原(ひるぜんこうげん)にオープンした。

 目玉は、建築家の隈研吾氏が設計監修したランドマークとなるCLT(直交集成板)パビリオンだ。19年11月に東京・晴海に建設された「CLT PARK HARUMI(CLTパークハルミ)」を蒜山に移築した。使われているCLTは真庭市産で、“里帰り”を果たした。

岡山県真庭市の蒜山高原にオープンした施設「GREENable HIRUZEN」。蒜山高原は西日本有数の高原リゾートとして知られる。右手に見えるのは、隈研吾氏がスノーピークと共同開発した木製のモバイルハウス。北海道大樹町に長年設置されていたものを、蒜山までけん引して運んできた(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
岡山県真庭市の蒜山高原にオープンした施設「GREENable HIRUZEN」。蒜山高原は西日本有数の高原リゾートとして知られる。右手に見えるのは、隈研吾氏がスノーピークと共同開発した木製のモバイルハウス。北海道大樹町に長年設置されていたものを、蒜山までけん引して運んできた(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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施設のシンボルになるCLTパビリオン(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
施設のシンボルになるCLTパビリオン(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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 CLTは「Cross Laminated Timber(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)」の略。ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料を指す。断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性に優れる特徴がある注目の木材だ。パビリオンでは、ヒノキ材のCLTを使用している。

 GREENable HIRUZENの敷地面積は、約7581m2。CLTパビリオンの他に、「屋内展示棟」と「サイクリングセンター」の3つの建物がある。合計4つの施設が入った。CLTパビリオンと屋内展示棟は晴海からの移築、サイクリングセンターは新築だ。サイクリングセンターはCLTと共に、茅(かや)をふんだんに使った世界でも珍しい建物になっている。

GREENable HIRUZENの全体図(資料:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
GREENable HIRUZENの全体図(資料:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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 CLTパビリオンは地上1階建てで、高さは約18m。構造は鉄骨造、木(CLT)造。延べ面積は約601m2

 屋内展示棟は地上2階建てで、高さが約9m。構造は木(CLT)造。延べ面積は約985m2

 サイクリングセンターは地上1階建てで、高さが約4.2m。構造は木(CLT)造。延べ面積は約50m2。茅仕上げ面積は約205m2となっている。

 CLTの利用量は、施設全体で約700m3。総事業費は約19億9000万円。

 GREENableは、自然や緑を意味するGREEN(グリーン)と、持続可能を意味する Sustainable(サステナブル)を掛け合わせた造語だ。GREENable HIRUZENは、GREENableに込めた思いと循環型社会を世界に発信する拠点となることを目指す。

 発注者は真庭市で、設計は隈研吾建築都市設計事務所、施工は梶岡建設・三木工務店JV(移築)、梶岡建設(サイクリングセンターや外構など)が担当した。江尻建築構造設計事務所(構造)、三菱地所設計(移築部分の構造)、環境エンジニアリング(設備)が設計協力している。

 移築したCLTパビリオンは「風の葉」と名付けられた。21年2月中旬から世界公募を実施し、応募総数437点の中から選ばれ、同年5月17日に決定した。

 ファサードは、木の葉をイメージした形のパネルが空に向かってスパイラル状に舞い上がるさまを表現したものだ。2.3m間隔で並べた鉄骨の柱に、平行四辺形のCLTパネルを編み込むように組み合わせた混構造を採用。風が抜ける半屋外空間になっている。「晴海に展示していたとき以上に、場所と調和した姿を見せてくれるだろう」(隈氏)

 同日に現地では、オープン記念式典が開かれた。真庭市の太田昇市長に加え、隈氏も蒜山に駆け付けた。隈氏は式典で「この場所は日本の木材利用の聖地になる」と述べた。

オープン記念式典であいさつする、真庭市の太田昇市長(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
オープン記念式典であいさつする、真庭市の太田昇市長(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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蒜山に駆け付けた隈研吾氏(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
蒜山に駆け付けた隈研吾氏(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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関係者によるテープカット(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
関係者によるテープカット(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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 隈氏は「このパビリオンは、コンクリートで箱をつくる20世紀の建築とは真逆を目指したものだ。自然との一体化や自然との共生をテーマに、どうしたら人が自然の中に戻れるかを考えた。この建築コンセプトは、新型コロナウイルス感染症の拡大で本格化する」とコメントしている。

 光を取り入れながら雨風を防ぐため、CLTのパネルとパネルの隙間を超高透過な「テフカ」(高機能フッ素樹脂フィルム)でできた凧(たこ)のような形状の膜で塞いだ。内部でくつろいだり、イベントができたりする。

風の葉の内部(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
風の葉の内部(写真:GREENable HIRUZEN オープン記念式典)
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 このCLTパビリオンは初めから移築することを前提に設計されている。晴海から蒜山に移築した後、以前は露出していた外側の鉄骨部分にヒノキのひき板を張った。より自然にやさしいファサードに変更した。

 東京でCLTの魅力と木材の情報を発信する役目を終えた建築物が、GREENable HIRUZENの新たなシンボルに生まれ変わった。この流れは「都市と農山村を結ぶ地方創生を象徴するものだ」(太田市長)。

 解体しても再生できる木造建築の特性を生かし、移築可能な素材と構造のシステムを実現。木材の新たな活用方法や建築物のアップサイクル例として、風の葉は持続可能性(サステナビリティー)を体現する建物に位置付けている。