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 「宮城県石巻市にマルホンまきあーとテラス大ホールという素晴らしい場所ができた。下見に行き、客席からステージを見たとき、そのフレームの中に震災から10年の月日のことを想像しながら、様々な縁とともに音楽をつないでいく、すごく豊かなイメージを持った」

2021年4月に開館した「マルホンまきあーとテラス」。設計は藤本壮介建築設計事務所。建物の手前が南、奥が北になる(写真:吉田 誠)
2021年4月に開館した「マルホンまきあーとテラス」。設計は藤本壮介建築設計事務所。建物の手前が南、奥が北になる(写真:吉田 誠)
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まきあーとテラスの大ホール(写真:吉田 誠)
まきあーとテラスの大ホール(写真:吉田 誠)
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 石巻市を中心とする芸術祭「Reborn-Art Festival 2021-22」が会期を分けて、2021年8月11日から同年9月26日までと、22年4月23日から同年6月5日まで開催される予定だ。今回で3回目となるReborn-Art Festivalはアートと音楽、食の3つにフォーカスしたイベントで、石巻市・牡鹿半島・女川駅周辺が会場になる。21年は東日本大震災から10年という節目に当たり、コロナ禍ではあるが主催者やアーティストは準備に奔走している。

 音楽プロデューサーで、Reborn-Art Festivalの実行委員長でもある小林武史氏は21年8月29日に開催する予定の音楽ライブに先立ち、7月に冒頭のコメントを発表した。

 21年4月に開館した「マルホンまきあーとテラス 石巻市複合文化施設」は、石巻市に10年ぶりに再建された大型文化施設である。11年の震災で、市は唯一の大ホールを備えていた石巻市民会館と、博物館機能と小ホールがあった石巻文化センターが使用不能になり、建物の解体を余儀なくされた。

施設のサイン。マルホンは、建物の施工者の1社である地元の丸本組が取得した命名権(ネーミングライツ)によるもの。まきあーとは施設の愛称を募集して選ばれた、石巻の「まき」と芸術の「アート」を組み合わせた言葉だ(写真:日経クロステック)
施設のサイン。マルホンは、建物の施工者の1社である地元の丸本組が取得した命名権(ネーミングライツ)によるもの。まきあーとは施設の愛称を募集して選ばれた、石巻の「まき」と芸術の「アート」を組み合わせた言葉だ(写真:日経クロステック)
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 文化活動拠点を失った市は、新しい施設設計の公募型プロポーザルを実施。16年に藤本壮介建築設計事務所(東京・江東)が選ばれた。施工は大成建設・丸本組JV(建築)が担当した。そして約10年ぶりに、文化施設の再建を果たしたのである。

 まきあーとテラスは早くも、石巻の観光名所になりつつある。21年6月には「アニメージュとジブリ展」が開幕し、約1カ月で来場者が1万人を突破する人気ぶりである。

 大小2つのホールや展示室、活動室、研修室、創作室、和室など、多くの機能を有する複合文化施設のまきあーとテラスは、総事業費が約130億円と巨額だ。施設の延べ面積は約1万3200m2。藤本壮介建築設計事務所代表取締役の藤本壮介氏にとって、金額と広さともに過去最大の公共建築になった。

 施設は、家形や煙突形の建物が横一列に並んでいるように見える、地上4階建ての真っ白な建物だ。文化施設であると同時に、復興のシンボルとして市の新しいランドマークになることを期待された建物でもある。白い家並みのような外観をしているため、遠くから眺めると緑の中に「白い街」が出現したかのようにも見える。

家形や煙突形の屋根が並ぶ(写真:吉田 誠)
家形や煙突形の屋根が並ぶ(写真:吉田 誠)
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 白く小さな家が集まって大きな「群れ」をつくる建物は、藤本氏らしい建築物といえるだろう。

 小林氏がライブ会場に選んだ大ホールは、東西に長いまきあーとテラスの建物の東側に位置する。1階席と2階席を合わせて、1254席を有する。

音響反射板に囲まれた大ホールの舞台(写真:日経クロステック)
音響反射板に囲まれた大ホールの舞台(写真:日経クロステック)
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舞台から客席を見た様子。座席が舞台に近く、観客はパフォーマンスを間近で見られる(写真:吉田 誠)
舞台から客席を見た様子。座席が舞台に近く、観客はパフォーマンスを間近で見られる(写真:吉田 誠)
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 まきあーとテラスは外観が白いだけでなく、内部も白を基調としている。施設を東西に貫く約170mのロビーが、館内の「メインストリート」になっている。ロビーに面して様々な機能を有する部屋が設けられている。

 施設の東端、大ホールに面する2階のホワイエは、開演を待ったり休憩したりするための大空間だ。長いベンチが通路に沿って配置されている。公演がないときは、市民がのんびりくつろげる場所になる。頭上には電球型の照明が幾つも輝く。窓で切り取った外の緑も美しい。大ホールホワイエはまきあーとテラスを訪れた人が必ず写真を撮る、いわゆるインスタ映えするスポットだ。

大ホールホワイエ。長いベンチで誰でもくつろげる。右に曲がると、そのままロビーにつながる(写真:日経クロステック)
大ホールホワイエ。長いベンチで誰でもくつろげる。右に曲がると、そのままロビーにつながる(写真:日経クロステック)
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 次ページでは施設の東から西にロビーを通って移動するつもりで、館内を紹介していく。藤本氏は、日本の公共建築としては斬新なデザインを採用したまきあーとテラスに、ある仕掛けを用意した。市民が誰でも「自分のお気に入りの場所」を見つけられるようにしたのだ。

 市は藤本氏に、「文化活動に関心が低い人でも何度も訪れたくなる場所」の設計を希望した。その依頼に藤本氏は、多様な居場所がある空間デザインで応えた。