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 2020年3月、世界文化遺産・軍艦島(正式名:端島)にある日本最古の鉄筋コンクリート(RC)造アパート「30号棟」の一部が突然崩落した。その後も崩落箇所は拡大し、20年6月には新たに別の箇所が崩落する事態に発展した。我々は軍艦島をどのように守っていけばいいのか。本稿では前編に続いて、崩壊が進む軍艦島を相手に筆者が取り組んできた「軍艦島3Dプロジェクト」の概要と、軍艦島を未来へ引き継ぐための保存の在り方について述べる。

軍艦島の3次元モデル(資料:出水 享)
軍艦島の3次元モデル(資料:出水 享)
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 軍艦島を保存するには老朽化の程度やその進行速度を把握する必要がある。しかし、島内の構造物は老朽化がひどく調査に危険が伴ううえ、多くの構造物が存在するため膨大な時間が必要となる。そこで、筆者が着目したのが3次元レーザースキャナーやドローンの空撮映像を活用した計測・測量技術だ。遠隔・非接触で短時間・広範囲を調査し、高精度・高密度の3次元デジタルデータとして記録することができる。

 具体的には建物・護岸・地面の形状や建物のひび割れ、鉄筋の露出、外壁・スラブの崩落、波によって浸食された地面の深さを記録できる。定期的にデータを取得し、比較することで、崩落箇所などの老朽化の進行速度を把握することが可能だ。つまり、3次元データを用いることで、軍艦島を島ごと「デジタル真空パック」にして記録することができる。

 14年に長崎市の依頼で実施した記録調査では、世界で初めて島をまるごと3次元データ化するのに成功した。記録には、筆者がかつて所属していた計測リサーチコンサルタント(広島市)の協力を得た。そして、15年には「軍艦島3Dプロジェクト」がグッドデザイン賞を受賞した。評価のコメントは「文化遺産をテクノロジーを使ってアーカイブ化した点を評価した。大学の研究としてこのような事例が今後増えて行くことを期待する」であった。

 その後、筆者は、社会科見学の火付け役として知られる見学家の小島健一氏らと文化財を3次元データで記録する「長崎3Dプロジェクト」を立ち上げ、長崎県内を中心として全国各地の文化財を記録している。軍艦島においては、16年、18年、20年と定期的に記録を取ってきた。

軍艦島は台風の脅威にさらされている。老朽化も深刻だ。写真は2017年の補修工事の様子(写真:出水 享)
軍艦島は台風の脅威にさらされている。老朽化も深刻だ。写真は2017年の補修工事の様子(写真:出水 享)
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