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 街の高台に完成した、地上2階建ての横長な建物。「茨城県大子町新庁舎」が2022年7月に竣工し、同年8月7~8日に内覧会が開かれた。木立のような現しの木柱と方杖(ほうづえ)の連なりが、見学者を出迎えてくれた。建物は周囲の山並みにマッチしている。

2022年7月に竣工した「茨城県大子町新庁舎」。木造2階建ての横長な施設だ。3棟の建物が横並びになっている(写真:日経クロステック)
2022年7月に竣工した「茨城県大子町新庁舎」。木造2階建ての横長な施設だ。3棟の建物が横並びになっている(写真:日経クロステック)
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 構造は純木造で、屋内外に使った柱や梁(はり)、方杖を現しにしているのが最大の特徴だ。森のような庁舎である。大子(だいご)町の市街地から視認できる見晴らしが良い場所に立っている。

 昨今の木造ブームもあり、東京から電車で3時間近くかかる山間の街にもかかわらず、内覧会には多くの人が足を運んだ。建築設計者だけでなく、木造に力を入れているメーカーやゼネコンの担当者、林業や木工などの関係者なども噂を聞きつけ、駆け付けた。そして誰もが「木の使い方がすごい」と、うなっていた。

町民の利用が多いカウンター。木立のような長い柱と方杖が2層吹き抜けの天井まで高く延びる。1本の柱に4本の方杖が枝を広げるように付いている(写真:日経クロステック)
町民の利用が多いカウンター。木立のような長い柱と方杖が2層吹き抜けの天井まで高く延びる。1本の柱に4本の方杖が枝を広げるように付いている(写真:日経クロステック)
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 使用した木材は全て、地元の茨城県産だ。3種類の木材による架構を林立させた。木材使用量(材積)は約900m3で、通常の木造2階建て住宅の24棟分に相当する量だという。外壁は窯業系スレート、屋根は溶解アルミ亜鉛合金めっき鋼板の縦ハゼぶきである。

 建築設計は遠藤克彦建築研究所(東京・中央)で、構造設計は佐藤淳構造設計事務所(東京・港)、施工は株木建設(水戸市)がそれぞれ手掛けた。遠藤克彦建築研究所は22年2月に開館した「大阪中之島美術館」を設計したことで話題になったばかり。ここでも佐藤淳構造設計事務所とタッグを組んだ。

 大阪中之島美術館の建設とほぼ同時期に進んでいた大子町の新庁舎プロジェクトも、同じ22年に竣工を迎えた。同年9月中旬にも新庁舎での業務がスタートする予定である。事業費は約20億7000万円。

遠藤克彦建築研究所の代表取締役である遠藤克彦氏が、通路から執務エリアの木柱を見上げる(写真:日経クロステック)
遠藤克彦建築研究所の代表取締役である遠藤克彦氏が、通路から執務エリアの木柱を見上げる(写真:日経クロステック)
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 こう書くと、話はすんなり進んだかに思えるが全く違う。新庁舎の建設は、まれに見る苦しいプロジェクトだった。過去の経緯を知ると、この建物は少し違って見えるかもしれない。

 遠藤克彦建築研究所の代表取締役である遠藤克彦氏は、「執念で最後までやり切った」と振り返る。18年6月の公募型プロポーザルで最優秀者に選ばれ、設計を開始。しかしその後の大子町長選挙で町長が替わり、経費削減により新庁舎の計画に見直しが入った。

 さらに難題が降りかかる。台風による計画地の浸水という災害が発生。新庁舎は高台に移転することになった。プロジェクトが振り出しに戻ったうえ、最後には行政への補助金応募のため構造変更を余儀なくされている。

 中でも19年10月に発生した台風19号による水害で、現庁舎の隣だった計画地が目の前を流れる押川が越水したときは、プロジェクトが白紙になりかけた。遠藤氏は所員に「プロジェクトがなくなるかもしれない」と伝えたという。

 だが町民の後押しもあり、遠藤克彦建築研究所は八溝山系の山に囲まれた新しい高台の敷地で設計を再開することになった。

 設計期間は、18年6月から21年1月まで3年弱を要した。その間、設計料が支払われたのは当然のことだが、救いだった。構造は当初の鉄筋コンクリート(RC)造、鉄骨(S)造から、S造や、木造とRC造のハイブリッド構造を経て、最後に純木造で決着した。

 何と、5回の基本設計と2回の実施設計をしている。構造設計を担当した佐藤淳氏は、「実施設計まで終わった施設ができないと知らされたときはがく然とした。だが関係者は心が折れず、やり抜いた」と本音を漏らす。

 以下に、取材を基に新庁舎プロジェクトの推移を時系列で整理してみた。

18年6月新庁舎設計の公募型プロポーザルで最優秀者に選ばれる
同年12月基本設計1。RC造、S造(地上3階建て)
同年12月町長選挙で町長が交代。新庁舎プロジェクトの経費削減が打ち出される
19年3月基本設計2。S造(地上2階建て、1層減らす)
同年10月実施設計1
同年10月台風19号による押川の越水で計画地が浸水。高台の新しい敷地に移転が決定
20年3月基本設計3。S造(地上2階建て)。S造と木造を並行して検討
同年3月基本設計4。木造、RC造(地上2階建て)。木造で補助金に応募するため
同年5月基本設計5。木造(地上2階建て)
21年1月実施設計2
同年3月着工
22年7月竣工
遠藤克彦建築研究所への取材を基に日経クロステックが作成。RC:鉄筋コンクリート S:鉄骨

 完成してみれば、建設業界は木造ブームの真っただ中。18年のコロナ禍前とは、世の中の状況も一変した。山と寄り添うように立つ開放的な木造の庁舎は、時代を先取りしたかのような注目の木造建築物になった。しばらくは見学者が絶えないのではないだろうか。

 ここからは内覧会の写真を中心に、新庁舎を見ていく。高台の敷地面積は2万5888.70m2、建築面積は3928.22m2、延べ面積は5256.68m2。新庁舎は「議会ホール棟」「行政棟」「倉庫棟」の3棟で構成する。いずれも高さは9m以下に抑えている。3棟が一直線に並ぶ一番右の軒先から左の軒先まで、長さは約110mある。

3棟の平面図と立面図(資料:遠藤克彦建築研究所)
3棟の平面図と立面図(資料:遠藤克彦建築研究所)
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行政棟の断面図(資料:遠藤克彦建築研究所)
行政棟の断面図(資料:遠藤克彦建築研究所)
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議会ホール棟。地元産の木材を使っていることをアピールしやすい意匠を採用した(写真:日経クロステック)
議会ホール棟。地元産の木材を使っていることをアピールしやすい意匠を採用した(写真:日経クロステック)
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行政棟。左奥が倉庫棟(写真:日経クロステック)
行政棟。左奥が倉庫棟(写真:日経クロステック)
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 議会ホール棟と行政棟は、渡り廊下で接続している。2時間耐火のコア区画(渡り廊下)を境にして、議会ホール棟と行政棟の面積をそれぞれ3000m2以下に抑え、準耐火建築物とした。燃え代設計を適用できる条件を整えるためだ。こうして木材の現しを実現した。

議会ホール棟(右)と行政棟(左)は渡り廊下(中央)でつないだ。コア区画(渡り廊下)は木材を現しにせず、2時間耐火にしている(写真:日経クロステック)
議会ホール棟(右)と行政棟(左)は渡り廊下(中央)でつないだ。コア区画(渡り廊下)は木材を現しにせず、2時間耐火にしている(写真:日経クロステック)
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