全2196文字
PR

 建設会社の浅沼組(大阪市)は「人間にも地球にもよい循環」をつくる「GOOD CYCLE BUILDING(グッドサイクルビル)」の第1弾として、同社名古屋支店のオフィスビル改修工事が完了し、2021年9月16日に竣工したと発表した。同17日に建物を報道陣に公開し、現地で記者会見と内覧会を開催した。

 名古屋支店の改修プロジェクトでは、築30年の自社ビルの既存躯体(くたい)はそのままに、約12tの建設残土をアップサイクルした版築ブロックや土壁、自然素材の吉野杉を使った外装などを採用した。建物正面のファサードを改修の前後で見比べてみると、同じビルとは思えないほど見た目が劇的に変わった。

 建物は地下1階・地上8階建てで、高さは約31mある。構造は鉄骨造。敷地面積は546.29m2、建築面積は381.29m2、延べ面積は2779.64m2である。

改修後の名古屋支店(写真:浅沼組)
改修後の名古屋支店(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
改修前の名古屋支店(写真:浅沼組)
改修前の名古屋支店(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 浅沼組は改修のデザインパートナーに、建築家の川島範久氏を起用した。川島範久建築設計事務所と浅沼組が設計を手掛け、スクラップ・アンド・ビルドではない「環境配慮型リニューアル」を追求。施工は浅沼組が担当した。

川島範久建築設計事務所の川島範久氏。環境配慮型建築に詳しい(写真:川島範久建築設計事務所)
川島範久建築設計事務所の川島範久氏。環境配慮型建築に詳しい(写真:川島範久建築設計事務所)
[画像のクリックで拡大表示]

 既存のビルを解体して新築で建て替えたときに比べて、躯体と仕上げにかかる製造・建設時の二酸化炭素(CO2)排出量を約85%削減した。新築に比べて改修で削減したCO2量は約1000tで、木材使用量1400m3の大型中高層木造ビルに固定されるCO2量に相当するという。

 外壁や躯体の補修もして耐久性を向上させ、長寿命化を実施した。こうして運用時のエネルギーも「ZEB Ready(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・レディ)」の認証取得を予定している。外皮性能の向上と高効率設備の導入などで、運用時のCO2排出量を改修前の50%以下に抑えることを達成した。

建て替えたときに比べて、建設時のCO<sub>2</sub>排出量を約85%削減(左)。運用時のCO<sub>2</sub>排出量も50%以下に抑えられる(右)(資料:浅沼組)
建て替えたときに比べて、建設時のCO2排出量を約85%削減(左)。運用時のCO2排出量も50%以下に抑えられる(右)(資料:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに、建物居住者の健康と快適性を評価する米国の第三者認証である「WELL認証」を、23年度に取得予定だ。21年3月には予備認証を取得済みである。築30年のオフィス全体の改修におけるWELL認証の予備認証取得は日本初だ。

 昼光利用や自然通風を意識したパッシブ改修に加え、土や木、植栽といった自然物に囲まれる職場環境に刷新することで、WELL認証を取得する。浅沼誠社長は「今後はオフィスだけでなく、病院や教育施設、公共施設などにも知見を広げたい」としている。

 改修の目玉は、西側のメインファサードを刷新したことだ。改修前は全面ガラス張りで、西日が差し込んだ。そのため、常にブラインドを下ろしていた。室内は昼間でも暗く、自然光が届きにくい状態だった。

刷新した西側のメインファサード(写真:浅沼組)
刷新した西側のメインファサード(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
改修前は全面ガラス張りだった(写真:浅沼組)
改修前は全面ガラス張りだった(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
改修後の低層部(写真:浅沼組)
改修後の低層部(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
改修前の低層部(写真:浅沼組)
改修前の低層部(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 従来の窓面から2.5mセットバックし、新たにベランダ空間を設けた。ベランダには、吉野杉の列柱や植栽を設けた半屋外空間をつくった。「このベランダが省エネと職場の快適さの両立に大きく貢献している。コロナ禍にも適する空間になった」(川島氏)

従来の窓面から2.5mセットバックして設けたベランダ空間。吉野杉の庇(ひさし)やベンチ、ウッドデッキを設置(写真:浅沼組)
従来の窓面から2.5mセットバックして設けたベランダ空間。吉野杉の庇(ひさし)やベンチ、ウッドデッキを設置(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
サッシを開ければ、ベランダ空間と部屋がつながり、十分な換気ができる(写真:浅沼組)
サッシを開ければ、ベランダ空間と部屋がつながり、十分な換気ができる(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 名古屋支店のような築30年程度の中規模ビルは、国内に数多く存在する。これらは中規模なので奥行きが浅く、「どこにいても外を近くに感じられる。開口部の計画を適切に行えば、十分な自然通風と昼光利用が可能なビルにリニューアルできる」と、川島氏は説明する。

 浅沼組は大阪市立大学健康科学イノベーションセンターと共同で、オフィスなどの建築空間が人の健康に与える影響を研究している。光や風にあふれ、土や木などの自然素材や植栽に囲まれた空間が人の疲労緩和や創造性の向上にどれだけ寄与するかを数値化することを目標としている。

 西側のファサードと共に改修で大きく変わったのが、地上1階のエントランスホールだ。長手方向に吹き抜けとなるよう、既存スラブの一部を除去した。

地上1階のエントランスホール。長手方向に吹き抜けとするため、既存スラブを除去(写真:浅沼組)
地上1階のエントランスホール。長手方向に吹き抜けとするため、既存スラブを除去(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]
改修前のエントランスホール。昔ながらのたたずまいだ。エントランスで使われていた石材は改修後にアップサイクルし、家具材や内装材に転用した(写真:浅沼組)
改修前のエントランスホール。昔ながらのたたずまいだ。エントランスで使われていた石材は改修後にアップサイクルし、家具材や内装材に転用した(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 突き当たりの既存壁面も取り除き、その先に2階に通じる階段室を増築した。階段室は今回の改修で、唯一の増築部分になる。

突き当たりの既存壁面を取り除き、2階への階段室を増築した。ここは左官職人による土壁の仕上げにし、階段を上り下りするのが楽しくなる工夫をした(写真:浅沼組)
突き当たりの既存壁面を取り除き、2階への階段室を増築した。ここは左官職人による土壁の仕上げにし、階段を上り下りするのが楽しくなる工夫をした(写真:浅沼組)
[画像のクリックで拡大表示]

 階段室の天井全面にトップライトを設け、自然光と風を取り込めるようにした。吹き抜けで1階と2階をつなぐことで、風通しが良く開放的な大空間に生まれ変わった。