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 吉本興業ホールディングス(HD)と岩手県紫波町、同町でまちづくりなどを手掛けるオガールは、3者連携の下で「持続可能な地方創生」を目指す。そのリーダーを養成するため、廃校を活用するまちづくりの中で、技能とビジネスの早期教育を進める。高校生と共に様々な事業を立ち上げ、地域課題である農業再生を実践する。

 吉本興業HD東京本部で2021年11月1日に開かれた共同記者発表会で、連携の狙いと新規の教育事業「ノウル プロジェクト」の概要が公表された。岩手県紫波町の熊谷泉町長、オガール代表取締役の岡崎正信氏、よしもとエリアアクション代表取締役社長の泉正隆氏などが登壇した。

 「オガール」は、各棟の建設にそれぞれ建築家を起用してきたプロジェクトだ。計画地内の宅地分譲プロジェクト「オガールタウン」では高水準のエコ住宅づくりを推進し、地域の工務店の技能向上に努めてきた。ノウル プロジェクトの説明にも、建築や住宅といった言葉が多用されている。

ノウル プロジェクト共同記者発表会におけるトークセッションの様子。写真左から岩手県紫波町の熊谷泉町長、オガール代表取締役の岡崎正信氏、よしもとエリアアクション代表取締役社長の泉正隆氏、吉本興業HDに対するアドバイザーを務める地域再生プロデューサーの清水義次氏(写真:日経クロステック)
ノウル プロジェクト共同記者発表会におけるトークセッションの様子。写真左から岩手県紫波町の熊谷泉町長、オガール代表取締役の岡崎正信氏、よしもとエリアアクション代表取締役社長の泉正隆氏、吉本興業HDに対するアドバイザーを務める地域再生プロデューサーの清水義次氏(写真:日経クロステック)
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オガールの岡崎氏は、日本大学理工学部土木工学科の出身。建設省(現・国土交通省)などを経て、東洋大学大学院経済学研究科(公民連携専攻)で学んだ後、地元である紫波町の地方創生事業に乗り出した。日経アーキテクチュアは「編集部が選ぶ 10大建築人2018」で同氏をクローズアップした(上は同記事)。共著として『民間主導・行政支援の公民連携の教科書』(日経BP)がある(資料:日経アーキテクチュア)
オガールの岡崎氏は、日本大学理工学部土木工学科の出身。建設省(現・国土交通省)などを経て、東洋大学大学院経済学研究科(公民連携専攻)で学んだ後、地元である紫波町の地方創生事業に乗り出した。日経アーキテクチュアは「編集部が選ぶ 10大建築人2018」で同氏をクローズアップした(上は同記事)。共著として『民間主導・行政支援の公民連携の教科書』(日経BP)がある(資料:日経アーキテクチュア)
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 日本全国の自治体から要請があるはずの小学校跡地の活用策として、本プロジェクトは下記のような特徴を持つ。順にみていく。

持続可能な「小学校跡地」活用事業に

1)ロケーション重視で初発の弾みをつける
2)校庭・空き校舎全体を「まち」に変えていく
3)まちづくりに成功はないと踏まえて進める

1)ロケーション重視で初発の弾みをつける

 「オガール」プロジェクトで紫波町の中心部にはにぎわいが生まれ、人口・世帯数は増加傾向にある。しかし、中山間地域の農村部が好転しているわけではなく、学校再編により、21年度末までに一気に7つの町立小学校が閉校となる。

 熊谷町長は「明治期から150年近くの歴史がある小学校を7つも閉じざるを得なくなった。地域の中心だった場所がなくなる喪失感があり、それを補う何かを跡地で展開したいと考えているときに、吉本興業の方々と出会う機会があった」と振り返る。

岩手県紫波町の熊谷泉町長。自身が農家出身であるため、「今度のプロジェクトが、若い人たちに改めて農業の面白さを伝える場になることを期待している」と語る(写真:日経クロステック)
岩手県紫波町の熊谷泉町長。自身が農家出身であるため、「今度のプロジェクトが、若い人たちに改めて農業の面白さを伝える場になることを期待している」と語る(写真:日経クロステック)
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 既に活用の方向性が決まっている小学校は除き、残った中から、紫波町北東部にある人口約1300人、高齢化率約44%(町平均約31%)の長岡地区に立つ長岡小学校を選び、オガールが事業者募集に応募した。「閉校に伴う活用事業としては初発になるので、勢いをつけなければ後が続かない。訪れてもらえば分かると思うが、場所を選ぶ際の決め手はロケーションの良さだった」と岡崎氏は語る。

 「公民連携のまちづくりを学びに米国を訪れたときに教わったことが頭にこびりついている。それは、ランドスケープ、サウンドスケープ、スメルスケープの3つを大事にしろという話だった。我々の感覚に勝手に飛び込んでくるこれらの要素が貧しかったら、それに見合う場所にしかならない。景観に恵まれた長岡の土地は、その点で不動産価値に伸びしろがある」(岡崎氏)

左は岩手県、右は紫波町のマップ。紫波町は町立学校再編基本計画を作成し、2022年3月末までに町内の7つの小学校を閉校すると決めた。また、町の北東部に位置する長岡地区は、中心部と比較すると交流人口やにぎわいに乏しく、高齢化の進行も著しい。農業の後継者不足は深刻で、従事者と出荷額の減少が課題となっている(資料:吉本興業HD)
左は岩手県、右は紫波町のマップ。紫波町は町立学校再編基本計画を作成し、2022年3月末までに町内の7つの小学校を閉校すると決めた。また、町の北東部に位置する長岡地区は、中心部と比較すると交流人口やにぎわいに乏しく、高齢化の進行も著しい。農業の後継者不足は深刻で、従事者と出荷額の減少が課題となっている(資料:吉本興業HD)
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ノウル プロジェクトを展開する場所となる紫波町立長岡小学校の現況。敷地面積は約1万5183m<sup>2</sup>、校舎の床面積は1787m<sup>2</sup>、校庭(運動場)の面積は9798m2。1873年(明治6年)に開校し、現在の鉄筋コンクリート造、地上2階建ての校舎の築年は1984年。21年4月時点の生徒数は全6学年で約40人になっていた(写真:吉本興業HD)
ノウル プロジェクトを展開する場所となる紫波町立長岡小学校の現況。敷地面積は約1万5183m2、校舎の床面積は1787m2、校庭(運動場)の面積は9798m2。1873年(明治6年)に開校し、現在の鉄筋コンクリート造、地上2階建ての校舎の築年は1984年。21年4月時点の生徒数は全6学年で約40人になっていた(写真:吉本興業HD)
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