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 ベンチャー企業Kids Publicが運営する「小児科オンライン」は、いわば二兎を追うサービスだ。自らも小児科医であるFounder & CEOの橋本直也氏の狙いは、子育てに1人で悩む親を助けることである。同時に、国内で不足する小児科医の負担を減らす効果も視野に入れる。2つの問題に同時に対処できるのは、それぞれの原因に重なる部分があるからだ。端的に言えば、育児の悩みを抱える人たちが気軽に相談できる医師が身近にいないことである。この状況を技術で打破できると踏んだことが、小児科オンラインの出発点になった。「パブリテック(=パブリック×テクノロジー)」の現状を探る連載の第5回。今回は、現役の医師ならではの視点で社会問題の解決を図るKids Publicの取り組みを解説する。

小児科オンラインの画面例
小児科オンラインの画面例
(出典:Kids Public)
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待っているだけでいいのか

 小児科オンラインは、子供に関する質問や悩みを、スマートフォン経由で小児科医に直接相談できるサービスである。日ごろのちょっとした疑問や不安な点を聞いたり、病院に行くべきかどうかの助言を仰いだりすることができる。平日の夜18時〜20時の間で10分間の枠を予約し、チャットや音声通話、ビデオ通話を通じた相談が可能である。サービスを導入した企業や自治体が費用を負担し、社員や住民は無料で利用できるという形態が中心だ。

 そもそもの発端は、橋本氏が小児科医として働いているときに出会った1つの事例だった。患者は3歳の女児で、大腿骨を折っていた。原因は母親による虐待。母子家庭で、子供には発達障害があった。

 このときに橋本氏が痛感したのは、子育てで孤立した母親は、時には子供に危害を加えるほど追い込まれてしまうということだった。それだけではない。世の中には、産後にうつ状態になるなどして、自らの命を絶ってしまう母親もいる。2018年9月に国立成育医療研究センターが発表した調査によれば、2015〜2016年に妊産婦の死因として最も多かったのが自殺。自殺の合計102例のうち92例は出産後だったという(国立成育医療研究センターの発表資料)。

 こうした事例をなくすためには、医師が病院という箱の中で待っているのでは不十分だと橋本氏は考えた。孤立しがちな子育て中の親に、もっと医師が寄り添うための手段として考案したのが小児科オンラインだった。

Kids Public Founder and CEOで小児科医の橋本直也氏
Kids Public Founder and CEOで小児科医の橋本直也氏
月曜から金曜日まではKids Publicの業務をこなし、土曜日にクリニック勤務をしている。
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