1950~60年代に制震構造の理論を研究していた小堀鐸二氏は85年、鹿島に小堀研究室を開設してから、その実現に向けて尽力した。コンピューター制御によって4トンもの重りを駆動させて、地震動の揺れを打ち消そうとする「京橋成和ビル」など、大掛かりなプロジェクトが動き出した。理論が実践されていく経緯を、現・小堀鐸二研究所の小鹿紀英副所長と、鹿島構造設計統括・先進技術グループの栗野治彦統括グループリーダー(以前は小堀研究室に所属)に聞いた。(全3回のうちの第2回)
コンピューター制御によってアクティブに建物の揺れを制御しようとした小堀鐸二氏。その第1号は、東京・京橋の「京橋成和ビル」(1989年)だった。
鹿島に小堀研究室(以下、小堀研)ができて、いよいよアクティブ制震のプロジェクトが始まりました。その開発中のことだと思いますが、制震の4つの理論に、もう1つの理論が追加され、「制震5原則」と呼ばれるようになりました。
(1)地震動のエネルギー伝達経路自体を遮断する。
(2)地震動のもつ振動数帯から制震系の固有振動数帯をisolate(分離)する。
(3)非線形特性を与えて非定常非共振系とする。
(4)エネルギー吸収機構を利用する。
(5)制御力を加える。
追加された(5)は、もともと機械系では導入されていたTMD(チューンド・マス・ダンパー)の影響を受けたのだと思います。地震動に同調する重りを用いて揺れを制御する装置です。その重りをアクティブ制震に生かして、重りを建物の揺れの反対方向に建物自らアクティブに駆動させ、揺れを打ち消そうとするAMD(アクティブ・マス・ドライバー)という仕組みを考えました。そのAMDが取り付けられたのが、アクティブ制震の最初の実作「京橋成和ビル」です。
総重量400トンほどのビルに対して、4トンと1トンの2つの重りを屋上でつっています。4トンのほうが地震動と逆方向に動いて、揺れを抑えます(動吸振器)。1トンのほうは、偏心している建物のねじれを制御しているんです。数トンもの重りを扱うわけですから、簡単ではありませんが、完成後、強制的に建物を揺らす強制加振実験を行い、効果のあることが確かめられています。
ただ、地震動を抑えるためには、大変なエネルギーが必要だということも分かりました。風や小さな地震ならよいのですが、大地震ともなると消費電力が膨大になってしまうんです。そのパワーとコストの問題で、アクティブ制震は普及しなかったのだと思います。