「木造プレカット」に関するこれまでの2回の記事を踏まえ、建築史家の伏見唯氏にこの技術の今後を展望してもらう。プレカットの歴史は、それほど長くはない。だが、その短い期間に、プレカットなしでは木造の住宅は語れないほどに普及していった。その普及の過程で、生産の在り方もまた大きく変わり、プレカットが社会を変えたと言ってもよい状況だろう。(全3回のうちの第3回)
社会や自然を変えるほどの技術がある。
かつて16~17世紀の英国において、高炉の誕生が鉄の生産量を伸ばしたとき、燃焼に木炭を必要としたため、製鉄技術が甚大な森林消失につながったように、大量生産、大量供給をするための中核技術は、扱う資源や享受する人間もまた多量のために、周囲に大きな影響を与える。元の資源を消費することで自然環境に変化をもたらすだけでなく、その技術との相性の良しあしで周辺産業の盛衰が決まるなど、人間社会にも変化をもたらす。
プレカットも、そうした技術の1つだろう。年間何十万棟も建設される日本の木造住宅の大部分で用いられる技術である。急速に普及していったこの20~30年の間に、住宅の建設産業の構造を瞬く間に塗り替えていった。すでに加工された材料が現場に搬入されるのだから、日本の木造を支えてきた大工が墨付けや手刻み、規矩術(きくじゅつ)などの腕を振るう機会は減り、さらに、機械が人間の代替を果たすことにより、大工の減少も顕著になった。
木構造振興の原田浩司氏の話によると、プレカットで刻みにくい金物が淘汰され、プレカットの後に木材が変形しては都合が悪いので、乾燥材の需要が増加。無垢(むく)材より乾燥に時間のかからない薄い材を重ねた集成材が普及するようになるなど、プレカットを核として周辺の産業が整理されていく。
木造住宅に金物工法が広まったことでプレカット技術が飛躍し、プレカットの普及が集成材の増加をもたらす、という関係が見て取れる。今や、プレカットに合わせることで成立している技術や産業は少なからずあり、プレカットを核とした1つの社会が出来上がっているといっても過言ではないだろう。