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 今後成長が期待される睡眠関連のビジネスや睡眠の研究に、大きなインパクトをもたらす可能性があるサービスが登場した。筑波大学発のベンチャー企業S'UIMIN(スイミン)が、2020年9月1日に開始した睡眠計測サービス「InSomnograf」である。

 ポイントは、精度が高い臨床レベルの脳波による睡眠計測を、自宅で誰にでもできるようにしたことだ。これを利用すれば、例えば寝具やサプリメントなどの効果を臨床試験で検証したり、正確な睡眠データがビッグデータ化されれば、いまだに謎が多い睡眠の実態や疾病との関連性などが明らかになったりする可能性がある。

これまでの主な睡眠計測の手法とS’UIMINのサービス「InSomnograf」の比較。端的に言えば、臨床レベルの計測を自宅でできるようになる。将来的には、AIを使って睡眠障害の自動診断サービスを提供することも視野に入れている
これまでの主な睡眠計測の手法とS’UIMINのサービス「InSomnograf」の比較。端的に言えば、臨床レベルの計測を自宅でできるようになる。将来的には、AIを使って睡眠障害の自動診断サービスを提供することも視野に入れている
(出典:右上の図はS’UIMIN、それ以外は日経クロステック)
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 S'UIMINは2017年10月に、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の「世界中の眠りに悩む人々への睡眠計測検査サービス」を事業化するために設立された。WPI-IIISの機構長で、S'UIMINの取締役会長を務めるのが、睡眠覚醒に関わる神経伝達物質「オレキシン」を発見するなど、睡眠の世界的研究者の1人である柳沢正史氏だ。

 OECD(経済協力開発機構)が2018年に33カ国を対象に行った睡眠に関する調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分でワースト1位だった。こうした睡眠不足による日本の経済損失額は14.8兆円(世界的なシンクタンクである米ランド研究所の調査)との試算もある。S'UIMINのサービスは、“睡眠負債大国”の国民の健康だけでなく、経済面でも好影響をもたらすかもしれない。

加速度センサーでの可視化は精度に難

 ここ数年で、米Apple(アップル)や米Fitbit(フィットビット)などが販売する加速度センサーを内蔵するスマートウオッチ(活動量計)の普及により、「睡眠の可視化」はすっかり市民権を得た。加速度センサーを搭載するベッドで睡眠を可視化し、それに応じてベッドの角度を調節したり、室温など室内環境を調節する“スリープテック”製品も多数登場している。

 ところが、加速度センサーによる睡眠の可視化には精度の問題がある。「活動量計などは、睡眠・覚醒を体の動きから推定しており、入眠や起床の時間は正確に測れるが、睡眠の質に関しては限られた情報しか得られない。我々の経験上、睡眠の質については脳波計測が不可欠だと考えている」とS'UIMIN代表取締役社長の藤原正明氏は言う。

 睡眠は時間という「量」と同時に、良い「質」を確保することが重要だ。睡眠には、浅い眠りの「レム睡眠(眼球の速い動きを伴う)」、深さに応じて3~4段階からなる「ノンレム睡眠(眼球が動かない)」、「覚醒」というステージがある。質の見極めには、睡眠の経過時間に応じたステージの判定などが重要になる。

 「例えばレム睡眠時は体は動かないが、左右の眼球が動く。脳波ならそのデータが取れるが、体動を検知する活動量計では取れない」(藤原氏)。つまり、レム睡眠とノンレム睡眠を間違えて判定してしまうこともある。

 最近ではヘッドバンド型の脳波睡眠計も登場しているが、締め付け感があるため快適な睡眠が取れなかったり、就寝中にヘッドバンドがずれるとノイズが大きくなり脳波が計測できなくなったりすることもあるという。