年間のEC(電子商取引)売上高が335億円、EC化率は30%超、EC売上高に占める自社EC比率は約6割でその金額は195億円に上る――。「IENA」や「JOURNAL STANDARD」などを展開するセレクトショップ大手、ベイクルーズの2018年8月期の実績だ。他のアパレル企業と比べるといかにこれらの数字が抜きんでているかが分かる。
例えば全体の売上高がベイクルーズより大きいオンワードホールディングスのEC売上高は203億円(2018年2月期)、TSIホールディングスは同289億円(2018年2月期)、セレクトショップ大手のユナイテッドアローズ(単体)は同235億円(2018年3月期)だ。ベイクルーズはEC売上高で45億円から130億円近くこれらのアパレル企業を上回っている。
ユニクロを運営する国内最大のアパレル企業、ファーストリテイリングと比べてもベイクルーズは健闘している。全体の売り上げ規模は国内ユニクロの約10分の1にとどまるが、EC売上高に限るとベイクルーズは国内ユニクロの半分超に迫る。
「今期の目標はオムニチャネルの一歩先、ユニファイドコマースだ」。そう語るのはベイクルーズの加藤利典EC統括執行役員だ。店舗とECをつないで、どこでも便利に購入できるオムニチャネル施策。その次に考えるのはユニファイドコマースだという。オムニチャネルを実現したプラットフォームを利用して、いかに1人ひとりに合った購買を勧められるかというパーソナライゼーションの段階に入ってきているという。
ベイクルーズは2014年よりオムニチャネルを強化してきた。方向性は3つだ。実店舗とECのあらゆる側面での結合、脱ECモール、そして内製化だ。
実店舗とECの統合については、2016年に会員情報を統合した。同年に店舗とECの在庫情報も統合、さらに物流倉庫の在庫を一元化し4つの倉庫拠点を1つにした。それまではECで購入した顧客と、実店舗で購入した顧客が同じだったとしても別々の顧客として管理していた。それを1人の顧客として管理できるようにした。在庫についても同じだ。ECの在庫と店舗の在庫を区別せずに統合して管理し、在庫過多もしくは不足に柔軟に対応できるようにした。
顧客のニーズに従えばオムニチャネルになる
脱ECモールへの取り組みについては5年前から始めた。それまで10以上のアパレルECと取引していたが4つに絞り込んだ。ZOZOTOWN(ゾゾタウン)、i LUMINE(アイルミネ)、MAGASEEK(マガシーク)、マルイウェブチャネルだ。それまでは楽天市場やAmazon.co.jpにも出品していたが撤退した。
理由は簡単だ。加藤執行役員は次のように説明する。「外的要因による業績変動リスクを抑えるためだ。例えば検索エンジンのアルゴリズムが変わった際に、自社であれば機動力高く修正できるが、相手に頼っているとそれができない。販促の面でも同じだ。自社でハンドリングできるデータやサービスをどれくらい持っているかが大事。データ資産がモノを言う時代だからだ」。そのために外部のECモールの比率が高くなり過ぎないように自社サービスを強化してきた。
その前提となったのがエンジニアリングの内製化だ。現在、ベイクルーズはEC構築やデジタル施策の立案・実行を従業員で構成するチームで賄う。エンジニアは約20人、UI/UX担当が約10人、マーケターが約10人のチームでほぼ内製化している。
販促のプランナーや撮影、ECのMD(マーチャンダイジング)などを含めると、ECチームだけで約100人を自社で賄う。SIerなど外部の協力は得ていない。「アマゾンやゾゾといったECのピュアプレーヤーと対等に戦うには内製化は必須と考えており、そのようにチームビルディングをしてきた」(加藤執行役員)。