全5365文字
PR

ハードウエア、特に電子機器の量産に強いエリアというと、中国深センが真っ先に思い浮かぶ。しかし、深センのEMS工場は、最低受注ロット数が大きい上に、人件費の高騰による値上がりなどもあり、どのEMSを選ぶべきか悩ましい。最近では日系メーカーの国内回帰の動きもある。ものによっては中国よりも国内で造った方が安い場合もある。そんな中、BtoBを中心に国内の多種多様な事業者からの依頼を受けてハードウエアの企画・開発・製造を手掛けているのが新潟県長岡市に拠点を置くヘルツだ。なぜあえて国内で製造まで手掛けているのか。同社のものづくりの強みと特徴を、代表取締役社長の山田修治氏と企画開発事業部長の椛沢学氏に聞いた(聞き手はコヤマタカヒロ=フリーランスライター)。

 ヘルツは、従業員約16名の小さな町工場兼技術会社だ。そのうち技術者が13人を占め、その多くが設計から製造まで幅広く対応できる。リモコンを中心にハードウエアの開発・設計から、そして製造までを一貫して手掛けるODM(相手先ブランド設計製造)ビジネスに特化する。1台だけの完全オリジナルの自動機から、月産1000台程度までの小ロット生産に特化。国内約50社の顧客を抱え、ヘルツに依頼すれば一気通貫で製品造りができると、取引先からも高い評価を得ているという。

ヘルツ 代表取締役社長の山田修治氏
ヘルツ 代表取締役社長の山田修治氏
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

EMSにいち早く見切りつけて一気通貫型へ

 同社の前身は、1973年に創業した大手メーカーの受託製造業、今で言うEMSだった。当時は、同じ北陸にあった旧アルプス電気(現アルプスアルパイン)やTDKなどからカセットテープレコーダー、フロッピーディスク/ハードディスクの磁気ヘッドなどの製造を引き受け、生産月産100万~1000万個という規模で大量に生産していた。しかし、1990年代に入ると国内メーカーの製造工場の中国シフトが急速に進む。そこでEMS事業を断念し、工場を売却して技術部門を独立させる形で誕生したのが現在のヘルツだ。

 「当初は中国でEMS事業を展開する案も検討しましたが、天安門事件などもあってそれも難しいと判断し、製造部門は大手EMSに売却しました。当時から、国内で大規模EMS事業をやってもいずれ中国には勝てなくなるだろうと感じていました。ただ、技術部門中心なら勝機はあると考えて独立したんです」(代表取締役社長の山田修治氏)。

 その後しばらくは、ソニーからの受注が仕事の中心だった。具体的にはリモコンや様々な自動機、専用機などの設計応援や開発、少量製造だ。ヘルツ企画開発事業部長の椛沢学氏は、「月曜から金曜までの間、ほとんどソニーに通って様々な製品を設計・開発した」と振り返る。しかし、やがてソニーからの仕事はもっぱら設計・評価だけになっていった。製造は中国の工場に依頼した方が安価だからだ。

 「現在もリモコンの設計を手掛けていますが、製造の仕事は国内から無くなりました。ときどき製造の依頼もあるが、単価がコストに合いません。ですから我々が国内で行うのは設計まで。デザイナーさんから送られてくるデザイン図面を具現化するのが我々の仕事。CADデータを納品して完了です」(同氏)。

 以前は小ロットの製造を引き受けていたが、2000年ごろから製造をほとんど海外で行うようになったという。だが、それまでに身に付けた技術やノウハウが今も大いに役立っている。実は、ソニーからの製造の発注が減ったのを受けて、ヘルツは広く顧客を探すべく日本全国の様々な企業を営業して回った。そのとき分かったのが、世の中には特殊なリモコンを500個や1000個といった小ロットで造って欲しいといったニーズが結構あるということだ。ただし、そうした小ロットの受注を、営業して探し回っていては経費で赤字になってしまう。ならば、と2005年にWebサイト(現在の同社Webサイト)を立ち上げ、顧客が来るのを待つスタイルに切り替えた。これが正解だった。

 「やっとヘルツさんにたどり着きました」――。Webサイトを見た顧客が、そう言って自ら来て発注してくれるようになったのだ。それぞれの注文数は少ないが、取引先は50社、100社と増えていった。これを支えたのが、ソニーとの仕事で培ったリモコン造りの技術・ノウハウだ。ヘルツでは自社のリモコンの標準形を用意。注文に応じてその標準リモコンのソフトウエアやデザインをカスタマイズするだけで対応できる依頼も少なくなかった。

 受注した仕事は、DVDプレーヤーなどに付属の小型リモコンから、高圧電線にできたつららを落とすロボット用の特殊なリモコンまで様々。そういったリモコンを手がけることで技術やノウハウをさらに蓄積していった。しかも、特殊なリモコンは、生産台数は少なくても単価が高い。一般的なテレビのリモコンの価格は1台3米ドル程度だが、特殊なカスタム品では20~30ドル、中には50ドルを超える製品もある。そうした特殊リモコンを得意分野とし、設計から製造まで一気通貫て提供する形にこだわってきた。