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 2020年9月、写真現像機などの開発・製造を手掛けるノーリツプレシジョン(和歌山市)本社ビルの1フロアに、ものづくりスタートアップのインキュベーション拠点「和歌山インキュベーションセンター」(WInC)がオープンした。地元企業や県庁を巻き込むとともに、量産工場を擁するものづくり企業の設備や人をフル活用し、試作から量産まで製品開発のすべてのプロセスを支援できるのが特徴だ。WInCセンター長を務めるノーリツプレシジョン代表取締役社長の星野達也氏に、設立の狙いと展望を聞いた。(聞き手は日経クロステック/日経ものづくり=山田 剛良、吉田 勝)

ユニークなアイデアはないがものづくりの場なら提供できる

 ノーリツプレシジョンは、ノーリツ鋼機の写真現像機(ミニラボ)部門が独立した旧NKワークス(和歌山市)を、16年にMBO(マネジメント・バイアウト)する形でできた。しかし、デジタル化の進展によって主たる事業であるミニラボ事業は年々縮小を余儀なくされた。そこで、余力の生まれたスペースや生産設備を活用し、和歌山の地からスタートアップを羽ばたかせようとWInCを立ち上げた。

星野達也(ほしの・たつや)
星野達也(ほしの・たつや)
ノーリツプレシジョン代表取締役。東京大学工学系研究科修了後、鉱山技術者として三井金属に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ナインシグマ・ジャパン(現ナインシグマ・アジアパシフィック)取締役を経て、2017年から現職。著書に『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)。(出所:ノーリツプレシジョン)
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 事業縮小にともないノーリツプレシジョンの本社ビルの一角が空いていたので、「これをインキュベーションセンターにしてはどうか」と思い立ったのが始まりです。大企業、中小企業、スタートアップとの連携を意識していましたが、中でも一番親和性が高いのがスタートアップとの連携です。スタートアップは独創的なアイデアを持っているものの、生産設備がないので試作・量産の壁にぶつかる。一方、ノーリツプレシジョンにはユニークなアイデアはなくても、ものづくりの場がある。スペースにも余裕がある。両者を組み合わせれば、和歌山から新しい価値を創造できると考えました。

 そこで、和歌山県内の産官学が一体となって支援すれば面白いことができるのではないかと思い県庁に相談したところ、補助金を出すなど積極的に動いてくれました。当社の目の前にある和歌山大学も、学内の一部設備を開放したりWInCへ移管したりと協力してくれました。同大はもともと起業に積極的で、産学連携にも注力しています。起業指向の学生にとって教育的効果も期待できるとの狙いがあったようです。地元銀行もスタートアップ向けローンを用意してくれました。こうして産学官を巻き込んだインキュベーション拠点としてWInCが立ち上がったのです。

WInCが入っているノーリツプレシジョンの本社ビル(写真手前)
WInCが入っているノーリツプレシジョンの本社ビル(写真手前)
4階がWInCとなっている(出所:ノーリツプレシジョン)
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 実は、伏線となったスタートアップ企業との連携があります。それが、最初の入居企業でもある和歌山大発ベンチャーの4Dセンサー(和歌山市)です。3D形状の時間変化をとらえるセンサーを開発している企業ですが、もともとマンションの一室をオフィスにしていました。しかし、設備がないので部品加工は全て外注しなくてはならず、郵送などで時間がかかると悩んでいたようです。

 そこで2年ほど前に、生産設備と人材が備わっている当社の一角に引っ越してきました。同社の活動を間近で見て、ものづくりスタートアップの苦労を目の当たりにするとともに、我々のような中堅ものづくり企業との親和性の高さを実感しました。「両者の組みあわせはシナジー効果があってウィン-ウィンの関係になる」。こう感じて、WInCの立ち上げに動いたのです。

 今後は4Dセンサー以外の和歌山大学発ベンチャーにも使ってほしいですし、大阪市街から1時間と近いので関西圏のベンチャーにも利用してもらえればと思っています。