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中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 「次の成長につながる基盤をつくりたいです」。私が技術戦略の策定コンサルティングを企業から受ける際に、ほとんどの経営者はこう語ります。彼らから相談を受ける中で共通して感じるのは、経営に関する危機感です。

 もちろん、企業によって背景は異なります。中国や台湾などの海外企業の攻勢にさらされている企業もあれば、顧客が海外に行ってしまって業績が右肩下がりという企業もあります。いずれも技術戦略によって業績を回復させたいというのが私への依頼の趣旨です。

 しかし、今回のコラムで伝えたいのは「V」字形回復を望む経営者の話ではありません。業績が悪い会社の話ではなく、むしろ逆。業績の良い会社の話です。業績が悪い会社の経営者に危機感があるのは当然ですが、業績の良い会社の経営者でも危機感があるという話をしたいと思います。

 ここで言う業績の良い会社とは、高収益企業に他なりません。一般に「高収益」と評されるのは、営業利益率が10~15%、もしくはそれ以上の会社です。実は、技術戦略の策定コンサルティングは、そうした高収益企業からの依頼も多いのです。「なぜ高収益企業が?」と思うかもしれませんが、これから紹介する事例を読めば納得してもらえると思います。それは「10年後の当社の成長の種を明確にしたい」と言う経営者、A社長の事例です。

高収益のX社が技術戦略策定に取り組むワケ

 A社長は、メーカーX社の2代目経営者です。依頼を受けた際に調査したのですが、X社の足元は盤石でした。「超」とは言えないまでも、立派な高収益企業と言ってよい状態でした。

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業績は偶然か必然か

 海外メーカーとの競合がありそうな業種ながら、X社の業績は高収益で安定しているという珍しいケースです。この好業績の源泉はA社長の手腕なのだろうと私は思っていました。

 しかし、A社長は現在の好業績について「偶然の産物だ」と言うのです。どういうことかといえば、顧客からの受注が得られている理由は、「たまたま競合企業にない装置を持っていたから」とのことでした。

 「たまたま」というのは謙遜で、きっと、強く意図したものではなかったというのが本当のところでしょう。しかし、経営者としては必然的に好業績にしたいものです。そのため、偶然によって好業績であるというのは、経営者としては怖い状態なのかもしれません。

 依頼を受けた時にA社長と話していて印象的な言葉が2つありました。1つは、A社長の「江戸幕府は滅んだ」という言葉です。先行きの業績を見通したものでしたが、社長の目が真剣そのものだったことが記憶に残っています。

 江戸時代末期から明治維新までの歴史を例に挙げながら、A社長は「幕府が外部環境に適応できないまま運営を続けてしまったことが、江戸幕府の崩壊を招いた。これと同じように、外部環境の変化をトップが察知して会社を変えなければ、会社は滅んでしまう」と語りました。

 聞いてパッと理解できる人とそうではない人にはっきりと分かれそうな話ですが、A社長が示したかったのは、「外部環境に適応できるように組織を変化させるのがトップの仕事。X社を適応できずに衰退するような会社にしたくない」という毅然とした態度でした。

 A社長はオーナー経営者ですが、オーナー経営者だからといって必ずしも危機感が強いというわけではありません。私はさまざまなクライアントと接してきましたが、経営者がオーナーか雇われかといった立場と危機感の有無は関係ないと感じています。

 技術戦略の策定を依頼するようなトップには、オーナーであろうとなかろうと、サラリーマン的気質の経営者にありがちな「自分の任期だけは何事もなく過ごす」といった感覚はありません。