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中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 「その方法は実績があるのですか?」。疑わしげな表情で発言者の私にこう問い掛けたのは、とある会社(A社)の部長でした。

 数年前、あるメーカー(A社)の会議室でのことです。私は、A社社員が参加する会議で、A社の「技術マーケティング業務」のコンサルティングをしていました。参加者はA社社長と部長、社員数人の全部で7人だったと思います。その日は2回目の会議でした。

 第1回目の会議ではA社が手掛ける現在の業務の問題点を指摘し、処方箋の概略を提示しました。コンサルタントとしては、現在の問題点や処方箋でさえも社員の皆さんの理解を得るために気を遣います。A社でもそうでした。なぜなら、社員の皆さんは現在の業務を正しいと思って実施しているからです。

 横道にそれるようですが、コンサルタントはクライアントが抱える現在の問題点の指摘や処方箋を書くのが仕事です。とはいえ、ストレートに言っては嫌われる場合があります。そのため、「オブラート」に包みながら言うわけです。嫌われてしまっては目的を完遂することが困難になります。

 さらに蛇足ですが、そもそも私は嫌われることをいとわないずぶとい性格ではありません。同じコンサルタントでも嫌われることをいとわない人もいますが、嫌われるのを恐れすぎてクライアントに順応してしまう人もいます。

 本題に戻ります。1回目で現在の問題点や処方箋についての理解を得たので、2回目では処方箋の詳細を詰めていくことになっていました。1回目で「総論賛成」を得た話の続きです。医師に例えると、薬の配合を決める感じでしょうか。

 2回目の会議で私が詳細に処方箋の内容を話し終えると、参加者から発言が出始めました。A社長はあえて発言せずに社員が話し始めるのを待っていました。そこで出たのが、冒頭の発言だったというわけです。

 「実績があるのか」というのはよくある質問なので、答えもある程度決まっています。ただ、このコラムで伝えたいのはその答えではありません。もっと別のことです。

表情の裏には

 コンサルティングの現場では、「総論賛成、各論反対」というのはよくある話です。なぜなら実践には痛みを伴う場合があるからです。そのため、反対そのものには驚きはありません。例えば「現業が忙しくて処方箋を実践する時間がない」というのはよくある反論です。言い換えれば「短期仕事が多すぎるため、中・長期の仕事(処方箋)はできません」という言い分です。よく分かる理由です。

 しかし、この部長の反応は違いました。「実績があるのですか」という質問をした部長の表情には、明らかに疑わしい気持ちが表れているように私には感じられました。言外に「実績のないことはしない」という含意があるように思えました。

 一瞬答えに窮しましたが、私の中で答えは決まっていたので、伝え方をどのようにするか考えました。部長の頭の中がどうなっているのか気になったのです。

 当然ですが、処方箋は会社ごとに違います。ただ、大きく違うかと言えばそうではありません。「風邪のときはこれ」「食べ過ぎにはこれ」と飲む薬がある程度決まっているように、会社でも症状に応じて処方箋もある程度決まっているのです。そのため、実績豊富と言えば豊富です。とはいえ個別に処方箋は違いますから、実績がないと言えばないのです。

 一瞬、「他社で実績豊富です」と言えば部長は安心するのかな、とも思いましたが、それでは私の考え方が勘違いされてしまいそうなので、以下のように答えました。

 「全く同じ実績はありません。しかし、他社でやっていないからこそ価値があると私は思いますが、いかがですか」。