全3135文字
PR
中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 「他社でも実績はあるのですか?」。古参の経営幹部がこう言ったのは、ある会議でのことでした。私はその会議でクライアント(A社)に新しい技術戦略を提案しました。会議に出席していたのは、A社社長と経営幹部、社員の10人くらいでした。

 私が提案した技術戦略とは、ある新しい開発テーマです。会議ではそのテーマついて説明したのですが、私には自信がありました。自信があった理由は、十分に検討したということもありますが、戦略にきちんと筋が通っていたからです。

 私の説明は30分くらいだったと思います。その間、社長はしきりにうなずいていたように記憶しています。そしてその後、その開発テーマについての話し合いの時間になりました。

 一通り質疑応答をした後に、A社の古参幹部から質問が出ました。それが冒頭の発言です。

 その発言には、どこかトゲがありました。前後の発言の文脈から「実績がないものはやらない、やりたくない」という意味にも解釈でき、責任を押し付けようとするニュアンスにも聞こえました。

 どのように対応しようかと一瞬考えたのですが、私の中で「答え」は明確に決まっていました。ですが、それをストレートに言うだけでは角が立ちそうなので悩んだのです。一瞬、言葉が出ませんでした。

 今日は、こんな時にどう対応するかについて、話をしたいと思います。

 一般に、正面切って反論すると人間関係が崩れることがあります。テレビの討論番組などで発言者が討論相手の人格否定のようなことまで言ってしまうシーンを見たことはありませんか(それはそれで番組としては面白いのですが)。あれはテレビ的には面白いのですが、そのまま会社でやったら大変なことになります。

 ここは会議室。どんな発言でも一旦は認めるのがマナーです。

「実践のあるものはやらないんです」

 A社での事の顛末をご説明する前に、読者の中にいる社内改革者や経営者のために、このような古参幹部に対する私の答えを共有させてください。

 「実績はあるんですか」という問いに対する私の中の答えは簡単です。それは、「実績がないからやるんですよ」というものです。月並みな答えで拍子抜けしましたか。

 ただし、これには続きがあります。「実績のあるようなものはやらないんです」というのもセット。つまり、「実績がないからやるんですよ、実績のあるようなものはやらないんです」と答えるのです。他社で既に実施されている戦略やテーマはやらないという意味です。それは模倣だからです。

 模倣して同質化すると収益が下がるのが一般的な解釈です。もちろん、例外として模倣して同質化してもコストで勝っていく戦略はあります(一部の自動車会社など)。とはいえ、あくまでも例外。それが通じる分野に限定した話です。

 この例外を除くと、基本的な考え方は、最初にやるか、後からやるなら差異化する。このどちらかです。そのため「実績のあるものはやらないんです」となります。

 論理的帰結はそうなのですが、人の感覚の話でもあります。私は、個人的に「他人がやったことはやりたくない」と思っています。既に他人の実績があることであれば、同じ道をたどるのには違和感を覚えます。

 とはいえ、私も大人ですから、他人がしたことであれば安心できるという人が多いのも分かります。私の経験では、日本人や韓国人にはこうした性格の人が多いような気がします。

 そして、人数的に多いのですから能力のある人も当然多く、会社の幹部になる人も多いと思うのです。件(くだん)のA社の古参幹部もその1人だろうと拝察しました。

 「人がやったことはやりたくない」と考えるのも筋は通っていますし、「他人がしたことであれば安心できる」と考えるのも筋が通っています。では、どのように考えるのがよいのでしょうか。

[画像のクリックで拡大表示]