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中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 つかの間の解放感に浸れると思ったら、もう新型コロナウイルス感染症の第2波が心配される展開になってきました。病床の逼迫(ひっぱく)感はまだないのかもしれませんが、おおむね1週間で2倍のペースで増えています。対応の遅い政府にばかりは頼れません。一国民として、気を引き締めていきましょう。

 さて、今回のコラムは、実践的な技術戦略の立て方の4回目として「潜在課題の発見」を取り上げます。研究開発テーマを創出する方法の1つである顧客課題の発見について解説します。次世代の成長のタネを作るために必要なものです。

 新型コロナにより新しい生活様式が進んでいます。ICT(情報通信技術)活用に関しては「時計の針をすごく進めた」「時代が10年進んだ」などと進化がもてはやされています。それによってもたらされたものの代表が、通勤レスや単身赴任レスなどの勤務形態に関するものではないでしょうか。

 私たちは、通勤や単身赴任は当たり前と考えてきました。しかし、もはやそうではなくなりつつあります。数年後には「以前そんなことをしていた時代があったね」と振り返ることになるかもしれません。

 新型コロナ騒動の前もICTを使えば出勤しなくてもよかったのですが、皆が出勤していました。なぜか。それが当たり前だったからです。このように、当たり前だと思っている非効率や課題を「潜在課題」といいます。

 コロナ前は、大変だけど当たり前だから出勤していたのですが、ICTを知っていれば本来は出勤しなくてもよかったのです。こうしたことは結構ありますよね。ハンコもその1つで、こちらもなくなろうとしています。

潜在課題
潜在課題
(出所:日経クロステック)
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顕在課題を解決しても儲からない

 潜在課題について分かりやすい例を挙げましたが、ビジネスで潜在課題を発見すると良いテーマになります。解決する技術を作ることで大きく改善できるからです。

 最近では、潜在課題を解決する商品や技術には、人工知能( AI)などのソフトウエアものが意識されると思います。

 私の属する弁理士の業界では、特許検索や検索結果の分析に関する自動化にとどまらず、明細書作成の自動化などの動きも見られます。従来は人がしなければならないと思っていたものがソフトウエアによって解決されつつあるのです。しかも、解決する商品はすごく注目を集めています。

 物流業界でも進化が加速しています。物流拠点での荷物の仕分け分野ではロボティクスとソフトウエアを活用した自動化・無人化によって、新型コロナで増えた大量の通信販売の物流をさばくことができています。そのため、米Amazon(アマゾン)やダイフクの株価はここ最近値上がりを続けています。

 このように、潜在課題を解決する商品を販売すると儲(もう)かるのです。

 逆に課題を解決しているのに、儲からない商売があります。それが何かというと、下請け取り引きです。下請けがなぜ課題を解決していながら儲からないかといえば、顕在課題に対応しているからです。

 顕在課題は、顧客が解決策を知っている課題です。どうすればよいか分かるため、代わりも探しやすい。替えがきく仕事はどうしても価格が安くなってしまいます。

どうすれば潜在課題を見つけられるか

 潜在課題を見つける方法は大きく分けて2通りあります。1つは営業マーケティングで見つけるもの。もう1つは研究開発で見つけるものです。

 このコラムでは、後者の研究開発で見つける潜在課題について解説したいと思います。研究開発で見つけられる潜在課題の情報源は何かといえば、ズバリ、特許情報です。参考になる特許さえ見つけることができれば、潜在課題は把握できたも同然となります。

 では、どのようにして潜在課題を発掘する特許を見つけることができるのでしょうか? それは、適切な検索をすることによってです。その検索の仕方はケース・バイ・ケースなのですが、以下の例で示してみましょう。

 化学業界の話ですが、専門性は高くない話なのでお付き合いください。樹脂の中にフィラーを入れて熱伝導率の高い樹脂を作る(高熱伝導性樹脂)開発が行われています。この高熱伝導性樹脂の用途の1つにヒートシンク(放熱部材)があります。高熱伝導性樹脂をヒートシンクに適用するに際して、潜在課題を把握するにはどうしたらよいでしょうか。ここで特許文献の活用ができます。

 どのような特許文献が参考になるのでしょうか。ヒートシンクには従来、熱伝導率の高い金属が使われてきたわけですが、このヒートシンクへの要求は、金属のヒートシンクの開発に関する特許文献に書いてあるのです。

 検索すると、例えば、以下のような特許文献「特開2013-175608」に当たります。その明細書には「温かい空気の対流性を高めるために放熱フィンを斜めに配置する」という記載があります。

特許文献「特開2013-175608」
特許文献「特開2013-175608」
(出所:スタンレー電気)
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 明細書によればこのヒートシンクは金属で出来ているようですが、樹脂で実現する場合に「同じような構成を採用しなければならないのではないか」と検討できます。表面積を増やすためです。

 金属の削り出しや組み立てよりも射出成形の方が安く済みそうだという認識は誰にでもあると思います。そのため、コスト面は良いとして問題は性能です。実際に放熱できなければ採用されませんので、放熱性能という基本性能は当然必要です。

 と、ここまでは顕在課題です。潜在課題はここから。コストや放熱性能は満たせるとして、その他に課題はないのかと考えていきます。そうすると、図面のような形状を射出成形で実現しなければならないという課題が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 顧客の潜在課題は、そう、成形性です。以上を抽象化・一般化すると、次の図のようになります。

潜在課題の発掘法
潜在課題の発掘法
(出所:筆者)
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