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中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 「コロナ禍で仕事がストップしてしまっている」という会社もあるかもしれませんが、私のクライアントは、Webでもリアルでも仕事をしっかりと前に進めています。中には「こんな時期だからこそできることがある」と鼻息の荒い経営者もいます。私もその意見に賛成です。新型コロナを理由に動きを止めるか進めるかで、収束明けの成否が決まりそうです。非対面で収益を上げたり、研究開発の成果を上げたりすることが大切と実感します。

 さて、今回のコラムは、「儲(もう)かるための重要技術の抽出について」です。これを読んでもらうことで、中・長期的な視点で見た場合に自社で強化しなければならない重要技術を見極める視点が得られます。これから技術戦略を立てようとするときに役立つ内容です。

 前回まで「技術戦略の立て方」と題し、技術の棚卸しやテーマの創出、テーマの評価までを説明してきました。今回はその流れを受けて、出来上がったテーマを絞り込むことについて解説したいと思います。

 最初に重要技術について説明しましょう。「重要技術」といっても何を意味するのかが分かりにくいと思うからです。そこで例に挙げるのが、英Dyson(ダイソン)とその商品です。ダイソンといえば、サイクロン掃除機や扇風機、ドライヤー、最近では手指乾燥機(コロナ禍で使用中止になっていることが目立つ製品ですが……)などが思い浮かぶのではないでしょうか。

 ダイソン製品で共通するのは、流体に関する技術です。ここでは「流体制御」と呼びましょう。そして、ダイソン自身は「デジタルモーター」と称してモーターの技術も保有していると説明しています

*1 掃除機に搭載したダイソンの技術。 https://www.dyson.co.jp/medialibrary/Files/Brochures/JP_Brochures/DC48_GENE_JP_RANGEBROCHURE.pdf

ダイソンの事業の発展は?

 ダイソンは日本での商品展開を次のように進めてきました。[1]掃除機に始まり、[2]扇風機、[3]ヘアドライヤーと発展して、その後、[4]手指乾燥機に至ります。この事業発展を技術を中核にしてまとめると図1のようになります。

図1●ダイソンの商品ラインアップ拡大の歴史
図1●ダイソンの商品ラインアップ拡大の歴史
(作成:筆者、写真:ダイソン)
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 図1からは、流体制御技術とデジタルモーター技術が商品の中核的な機能・性能に利用されていることが分かります。

 このように技術を基にして事業を展開するメリットは2つあります。1つは、商品を見据えた基礎技術の研究ができることです。流体制御やモーターに関する技術を磨いていくことで、商品の機能・性能を飛躍的に向上させることができます。そのため、流体制御やモーターの技術者はそれらの商品を見据えた研究開発ができます。

 もう1つは、同じ技術で複数の事業が立ち上がるため、投資対効果が良いことです。同じ流体制御とデジタルモーターの技術でありながら、出口となる事業には、先の通り少なくとも4つあります。商品で見れば相当数に貢献していることになります。

 ただ、残念ながら、ダイソンがこのような事業発展を事前に計画していたかどうかは分かりません。創業者であるジェームズ・ダイソン氏の創業当時のインタビューなどを読んでも、掃除機を作ることに情熱を燃やしていたことは分かっても、事業発展のことにまでは触れておらず、もしかすると、最初に計画などなかったのかもしれないとも考えられます。

 しかし、私たちがこれから作ろうとする技術戦略においては、強い技術を基にして事業発展させることを「計画的に」成し遂げたいと思いませんか。

事業発展は行き当たりばったりでよいのか

 繰り返しになりますが、ダイソンでは強い技術が複数の事業や多数の商品を支えています。こうした技術の発展が投資対効果に優れるのです。では、このような事業発展にするためには、どのような考え方が必要でしょうか。

 これには少なくとも3つのステップが必要です。

 第1のステップは、自社技術の用途を分析することです。この方法については、第16回のコラムで触れました。方法の詳細はそれを見てください。

 用途分析は、自社技術を核にして用途を探索することです。図2のようなものを「アプリケーションマップ」と呼びますが、このような資料を作成してテーマを明確にすることが重要です。

図2●アプリケーションマップ
図2●アプリケーションマップ
(作成:筆者)
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 第2のステップは、このようなテーマを深掘り検討した上で優先順位を付けることです。優先順位付けは、以下のような評価を行うことで可能となります。図3の「投資倍率/技術距離マップ」は、アプリケーションマップで考案したテーマを所定の基準で評価したものです。

図3●投資倍率/技術距離マップ
図3●投資倍率/技術距離マップ
(作成:筆者)
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 縦軸は、既存技術からの距離を表したものです。距離が近ければ優先順位が高い一方、遠ければ優先順位が下がります。この点については、第19回のコラムで紹介しているので、そちらも参考にしてください。

 横軸は、見込める営業利益を投資金額で割ったものです。倍率が表示されます。これは高ければもうかりますので優先順位が高く、低ければ優先順位が低くなります。これらを合わせると、右下にある領域が優先順位の高いテーマになるというわけです。右下にある「テーマA」と「テーマB」をやっていくということになります。

 ここまでで、どのようなテーマができるのかを検討し(発散)、実際にどのテーマの優先順位が高いのかを検討してきました(収束)。

 そこで、第3のステップとしてテーマに共通する技術を検討することとなります。図4に示す通り、テーマAに必要な技術が「技術X」「技術Y」「技術Z」とし、テーマBに必要な技術を「技術X」「技術Y」「技術W」とすると、共通する「技術X」と「技術Y」が重要な技術となります。

 こうして抽出された共通する技術が、自社の重要な技術になるというわけです。ダイソンに例えると、扇風機やドライヤーに生かせる技術として流体制御技術とモーター技術が抽出されるというイメージとなります。