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中村大介
中村大介
高収益化支援家、弁理士

 「当社でも遅ればせながらIPランドスケープらしきものを始めたんですよ。でも、技術者からの反応がいまひとつなんです」。先日、オンラインで打ち合わせをしていたときに、大手企業の知財部の人からこうした悩みを聞きました。

* IPランドスケープ 特許情報を駆使したビジネス分析のこと。IPはIntellectual Property(知的財産)の略。

 「らしきもの」と言っていたのが印象的なその人は、知財部では古参のエキスパート。仮にAさんとしましょう。とはいえ、知財情報解析はあまり慣れていないらしく、複数の研修に参加された程度ということでした。そのためか、それほど自信があるわけではなさそうでした。

 聞くと、知財部には支援すべき研究所や事業部門があり、多数の技術者がいるとのこと。研究所や事業部が検討するテーマに対し、IPランドスケープの観点から支援したいと思っているのに、なぜか空振り感があるというのです。「反応が悪いというか、ニーズがないように感じるんです。ニーズのない所に話を持っていっても仕方がないですよね」とAさんは言います。知財部長はそれを横で聞きながらうなずいていました(オンライン打ち合わせですが)。

 皆さんの会社でもこんなことはないでしょうか。知財部はIPランドスケープを行う用意があるものの、実施しようとすると技術者が乗ってくれないという状況です。

 実は、これはよくある話です。「IPランドスケープあるある」とでも言ったらよいでしょうか、IPランドスケープに限らず、「バズワード」にはほぼあります。例えば「オープンイノベーション」も同様です。手法が先行して新聞や雑誌などで報道されて広まるものの、現場には落ちてこない。そのため、推進者は困ってしまうという構図です。

(出所:日経クロステック)
(出所:日経クロステック)
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IPランドスケープは親子関係に似ている

 この状況は子供と塾の関係によく似ています。「親は塾に行かせる準備があるのに、子供本人にはその気がない」という状況です。子供は勉強の必要性を感じておらず、「なんで塾に行く必要があるの?」という子供からの質問に親は答えられないのです。「良い大学に行こう、良い会社に入ろう」などという時代ではないとはいえ、良い教育を受けることは大切だと多くの親が思っています。だから、塾に行こうとしない子供にいらいらしてしまうのです。

 こんなとき、親の対応はおおむね3通りあります。①放置する、②本人が行きたくなるまで待つ、③行くように誘導する、です。

 塾に行く子供の場合、「親の言うことは聞いておいた方がよいだろう」と考えてその誘導に乗ることが多いように思います。塾に行かせることができれば親は肩の荷が1つ下りますが、その後も事あるごとに親の誘導があることは想像に難くないでしょう。

 話をIPランドスケープに戻します。先述のAさんも「子供を塾に行かせたい親」と同じ状況にありました。技術者はやりたいと思っていないのです。Aさんにも3つの対応がありました。①放置する、②技術者がやりたくなるまで待つ、③やるように誘導する、の3つです。

 Aさんや知財部長は③の誘導方法を探っているようでした。打ち合わせでは、「どうすればうまく誘導できますか」と問い掛けられました。私はどのような答えを伝えるべきか迷いました。

 というのは、③の誘導をした別の会社(B社)の結果を知っていたからです。B社では、技術部門に知財部から定期的に情報が配信されていました。単なるSDI(特許公報などの配信)ではありません。なんと、毎月パテントマップにしたものを送っていたのです。

 知財部の人であれば、このサービスの行き届きぶりに驚くことでしょう。読者のために補足すると、パテントマップというのは作製が非常に面倒で手間が掛かります(通り一遍のものであれば自動化ツールで簡単に作製できるのですが、きちんと意味を持つものに仕上げるのは大変なのです)。知財部以外の人にはその苦労は分かりにくいと思いますが、B社の知財部員は粉骨砕身、寸暇を惜しんでマップを作ったであろうことは容易に想像できました。