全3000文字
PR
高収益化支援家、弁理士 中村大介
高収益化支援家、弁理士 中村大介
[画像のクリックで拡大表示]

 前回に続いて今回のコラムも新規事業の開発に悩む経営者の話です。「なぜ新規事業が立ち上がらないのか」と誰しも悩むものですが、その典型的な症状に関する話です。

 今回の主人公は、とある上場企業の最高技術責任者(CTO)です。X社のBさんとしましょう。Bさんはいわゆる「生え抜き」の優秀なエリートCTO。技術畑を歩み、留学経験もある華々しいキャリアを持つBさんの悩みとは何でしょうか。

 まず、X社の環境について紹介します。X社は化学や材料のプロセス系の製造業です。昭和時代にある物質の合成に成功し、その後事業を広げてきた会社です。詳しいことは書けませんが、サプライヤーとして一定の力がありました。

 Bさんは技術者として入社し、コア技術の基礎研究や商品化などに携わってきたそうです。その後、機会があって留学。研究生活は非常に充実していたそうですが、持ち帰った技術は残念ながらあまり会社では使われなかったとのこと。とはいえ、既存事業への貢献で十分にエリートコースを歩んできたBさんは今やCTO、はたから見れば十分に報われたように見えました。

 この話は新型コロナウイルス感染症がまん延する前のこと。CTOのBさんと居酒屋で飲み始める前の時間で、少し真面目な話をしました。

Bさんの悩みとは

 「これからどのようなステップを踏もうとしているのですか」と私がBさんに聞 くと、Bさんはこう答えました。「まずは技術の棚卸しをして、どのようなテーマが可能なのかを検討しようと思います」。「そうなんですね、どうしてそう思うのですか」。私がそう聞くと、Bさんは困ったような表情をしました。「どうしてそんなこと聞くの」と言いたげな表情です。

 私は困らせたくて聞いたつもりはなかったので、「特に理由がなければそれでいいですよ」と言いました。多くの人と同じように、「他の会社でやっているから」という理由で技術の棚卸しをしようとしているのかなと思い、「では、どのようなテーマが出ることを期待しているのですか」と私が聞くと、Bさんはこれにも困った表情をしました。そして借りてきた言葉を話すかのように「社会課題を解決するようなテーマがでるといいですかね……」という返事。

 ここで私はBさんがビジョンらしいものを持っていないな、と確信しました。「痛いところを突かれた」という表情をしたからです。

 ここまでのやり取りを聞いて、CTOではない読者の方は「えっ、CTOってもっと明確なビジョンをもっているんじゃないの?」と思ったかもしれません。当然、CTOには期待しますよね。しかし、CTOの立場にある人は、Bさんのようなことが「あるよな」と思ったに違いありません。

 そう、これは本当によくある話だからです。CTOといえば、社内の全ての技術に通じているばかりではなく社外の技術にも広く知見があり、その未来での用途や事業化についてビジョンを持っている、と期待されています。

 しかし、CTOとはいえ人間。期待されるのは良いとしても、そうではない場合も多いわけです。それもそのはず、X社に求められているのはこれまでのような事業の順調な発展ではなく、新規事業だったからです。

 Bさんの肩を持つわけではないのですが、Bさんはとても優秀です。仕事で成果を上げて留学まで果たしたのですから。しかし問題は、「BさんはX社が現在必要とする能力を持っているか」ということでした。

(作成:筆者)
(作成:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]