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 「当社の商品開発の上市率は100%です」。商品開発の成功率について、A部長はこう答えました。

 A部長は、とあるメーカー(B社)の開発責任者です。上市率とは、販売を開始したテーマ数を、開発を開始したテーマ数で割ったものです。つまり、商品開発の成功率のこと。その数字が100%ということは誇るべきもののはずです。ところが、A部長はばつが悪そうにしていました。

 「100%とは、すごいですね」。私が真顔でこう返すと、A部長はますます表情を曇らせて「意地悪を言わないでくださいよ」と。そこには苦笑いのA部長がいました。

 私とA部長は商品開発のプロセスについて打ち合わせをしていました。話題の中心はB社における商品開発テーマの創出についてです。B社の課題は「大粒のテーマをもっと出せるようにしたい」ということでした。

 上市率100%というのは、文句なしに素晴らしい数字です。開発を始めたものの商品化には至らないテーマが多い中で、各社が商品開発プロセスの改良にしのぎを削っています。B社では狙った通りに商品化できるわけですから、立派な数字と言えるでしょう。

 A部長は私が「コンサルタントなんだから事情は分かるだろう」と思っていたかもしれません。ばつが悪そうな表情の裏にはB社ならではの事情が隠されていたのです。

(作成:筆者)
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上市率100%の裏側

 「なるほど、そういうことですか」。A部長のばつが悪そうな態度を察した私はうなずきながらそう言いました。A部長は「やっと分かってくれたか」と言わんばかりに身を乗り出して、「うちの会社は客先の言うことを聞く会社ですからね」と言いました。「客先の言うことを聞く会社」というのは、A部長が自虐的に言ったことだとすぐに理解しました。「確かに、客先の言うことばかりやれば失敗はないですよね」と私が返すと、「そう、それが問題なんですよ」とA部長。

 B社の開発の方法は、従来型の顧客要望対応型でした。顧客の要望に応じて開発を行うスタイルです。この方法は一般には商品開発ではなく「下請け」と表現するのかもれません。B社ではそう呼んではいませんでしたが……。

 B社にとって「商品開発に成功する」というのは、要望を出した顧客に対して販売していくという意味であり、その他の客先にたくさん売ることを意味していませんでした。要望を出してきた客先に売れればよいのです。厳密に言えば「上市」とは言えないかもしれませんが、そこはB社定義に従います。すると、立派な「上市率100%」になるのです。

 それだけにA部長の悩みは深く、「社員に染み付いてしまった業務のやり方を変えるにはどうすればよいのだろうか」という難題を抱えていました。

 「変革することはできますが、上市率は100%から下がりますよ」と私は言いました。すると、A部長はまたばつが悪そうな表情になって、「もちろん、私はそう理解しています。しかし、上層部はなんと言うか……」と続けました。

 「そういうことなんですね」。A部長の本当の悩みを共有した私は相づちを打ち、B社の本当の課題は「失敗しないこと」に重きを置く経営にあることだと理解しました。