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高収益化支援家、弁理士 中村大介
高収益化支援家、弁理士 中村大介

 「新規事業のアイデアを出そうと、まずブレストをやりました。そうしたらこのようなアイデアが出ました」。クライアントのA社で新規事業の推進会議をしていた時のことです。私はコンサルタントとしてその場に参加していました。すると、テーマ創出の進捗状況についてA社の担当者からこうした説明を受けたのです。

 説明するまでもないと思いますが、ブレストとは、ブレーンストーミングの略。要約すると、ブレストには以下のようなルールがあります。

  • 自由にアイデアをたくさん出す、質より量
  • 他人の意見を否定しない、むしろ乗っかる

 ブレストと聞くと、よく使われている手法というイメージがありませんか。アイデアがよく出るというイメージもあるかもしれません。逆にいえば、アイデアを出すのにブレスト以外の手法はあまり知られていないようにも思います。だからこそA社でもブレストをすることになったのでしょう。

 しかし、私はブレストについてはそもそも懐疑的です。そのため、発表者にこう尋ねました。「ブレストで出たアイデアについてお尋ねしたいのですが、そこで出たアイデアは良いアイデアでしたでしょうか?」

 すると、発表者の方は若干困った表情をしました。そして、言いにくそうに「良いアイデアだとは思うんですけど……」と言葉を詰まらせました。十数人いたその場が静まりました。

 私はブレストに懐疑的とはいえ、発表者を問い詰めるつもりはなかったので、否定するような言い方で質問したわけではありません。努めてフラットに質問しました。実際にどうだったかが知りたかったのです。しかし、発表者の言葉を詰まらせた様子に、答えが見えたような気がしました。きっと良いアイデアではなかったのでしょう。私は「やっぱりね」と思いました。

「ノーインプット、ノーアイデア」

 やはり、ブレストは良いアイデア出しの方法ではないのです。ブレストで目的とするのは良いアイデアですが、ブレストで出るのは「良いアイデア」ではなく、「単なる思いつき」であることがほとんどです。

(作成:筆者)
(作成:筆者)
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 なぜかといえば、人のアイデアというのは所詮、見たもののコピーにすぎないと私は思うからです。「芸術は模倣から始まる」とか「創造は模倣から始まる」という格言を聞いたことがあると思います。この格言のルーツについてはこのコラムでは省きますが、意味合いとしては、どんな偉大な芸術や創造の類いも模倣が起点ということで、「芸術や創造をしたいのであれば良いものを見ろ」ということです。

 良いものを見たことがなければ芸術は高まらない。私は、新規事業でも同じようなことがいえると思っています。どういうことかといえば、ろくに調査もしていないのに良いアイデアなど出るはずがない、というものです。

 「ノーインプット、ノーアイデア」。私はこう言っています。良い調査をしていないのに、良いアイデアなど出るはずがないという意味です。そう、アイデアの前に調査なのです。

 恐らくA社でも、調査なしにアイデア出しのためのブレストがなされたものと推察しました。そのため、「やっぱりね」と思ったというわけです。「ブレストの前に何か調査しましたか?」と聞くと、発表者からは小さな声で「いいえ」と返ってきました。

 「どんなアイデアが出たのですか」とさらに聞くと、言葉を詰まらせていました。くどいようですが、私は詰問口調で質問をしたわけではありません。あくまでもフラットに質問しました。

ブレストするとどうなるのか

 一般に、ブレストは準備せずに行うことが多いと思います。思いつきで話すのがルール。皆が思いつきで発言します。そのため、そもそも良いアイデアではないのです。そしてブレストのルールがさらに結果を悪くします。上述のように、ブレストのルールの1つに「批判や否定をしない」というものがあります。これを運用すると、どんなにダメなアイデアも温存されるという結果につながるのです。ブレスト参加者は皆、ダメアイデアはダメと分かります。しかし、否定も批判もしてはいけない。そのために残ってしまいます。

 ブレストのメンバー内に残ってしまう程度であればまだよいのですが、私が耳に挟んだところでは、ダメなアイデアであるにもかかわらず、役員会にまで提案・報告されるなどというケースもあるようです。

 ひどいものでは、大手メーカーの研究所で「居酒屋」という新規事業が役員向けに提案されたという噂話もあるほどです。もちろん、最近では培養肉や昆虫食などの新規事業がありますから、居酒屋も新規事業として一概に否定されるものではありません。しかし、その会社では本当に単なる居酒屋が提案されたそうです。

 その居酒屋のテーマがどう扱われたかといえば、事業との関連性はなく、技術的にも関連性がないことから検討の余地もなかったそうです。本当に単なる時間の無駄だったのです。アイデアの創出者の間だけで時間が無駄だったというのならまだしも、聞く手間も発表の場をつくる手間もかかったとのこと。それらが全て無駄だったというわけです。

 私は結果の出ないものが全て無駄と言いたいわけではありません。新規事業に失敗はつきものです。従って、むしろ無駄は許容されるべきだと思います。しかし、許容できる無駄にも程度があります。

(作成:筆者)
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 何の調査もせずにブレストをやり、否定しない温存ルールに沿ってダメアイデアを残す。そして、それを発表するのはあまりにお粗末だと思うのです。新規事業担当者として最低限の努力すらしていない、努力義務違反という感があります。とはいえ業務時間内でのことですから、正しい努力の方法に関して教育を怠っている会社の責任ともいえます。