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高収益化支援家、弁理士 中村大介
高収益化支援家、弁理士 中村大介
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 「コア技術が大事であることを認識させてほしいんですよね」と言ったのはA所長です。その打ち合わせにはA所長と数人の部下、そして私が参加していました。打ち合わせの議題は「研究開発テーマ創出のコンサルティングの進め方」です。コンサルティングの進め方といってもピンとこないと思いますので、少し説明しましょう。

 コンサルティング会社には「方法論(メソドロジー)」があります。方法論の土台になっているのは経営学の考え方。経営学は「こうすれば高収益になる」という説明をしたもので、有名なところでは米国の経営学者マイケル・ポーターの「競争戦略」や、同じく米国の大学教授ジェイ・B・バーニーの「企業戦略論」などがあります。経営学はあくまで学問ですが、日々実務に接するコンサルタントは現象をうまく説明するために学問に乗っかるわけです。

 コンサルティングには関わるメンバーがいます。A所長の部下です。彼らをうまくリードして成果を出す(出させる)のが私の仕事なので、その方法論について話をしていたというわけです。

 打ち合わせの議題は大ざっぱに言えば、「どのような方法論を適用するか」というものでした。コンサルタントは私なので、私がリード役です。そのため私は「このような方法論を適用することを提案します」と言い、趣旨を説明しました。

 分かりやすく言うと、「私がA所長の部下の皆さんと共同でこんな作業をすれば、こんな成果が出ると思いますよ」と説明していたのです。すると、A所長から「コア技術を認識させてほしい」という趣旨の発言があったのです。

 打ち合わせには他のメンバーも参加していましたが、彼らは皆、私の顔を見ました。私は「またこのパターンか。どう答えようかな」と思っていました。

(作成:筆者)
(作成:筆者)
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コア技術理論は時代遅れ

 というのも、A所長のコメントの背景にある考え方が今はもう通用しないことを知っているのは、その場では私だけだったからです。「そんなの古いよ」と言ってしまえば感じが悪いですし、また、簡単に切って捨てられるものではないことは承知していました。

 A所長のコメントの背景には「コア技術が大事である」という考え方があります。少しマニアックな話ですが、この考え方は「高収益には固有資源や特許技術が大事」だというバーニーの理論から来ています。知財法の考え方にも共通するところがあります。「特許を取れば独占できる」と皆さんも教わったのではないでしょうか。

 しかし、バーニーの理論や知財法の考え方もまた時代の流れの影響を受けます。諸行無常(全てものものは変化する)なのです。確かに、バーニーの理論や知財法の考え方はかつて説得力がありました。もちろん、今でも通用する部分は多くあります。だからこそ、かえって新規事業を検討する実務者の我々の目を曇らせてしまうのです。

 改めてバーニーの理論を大ざっぱに言えば、「高収益には固有資源が大事だ。固有資源を入手しろ」というものです。固有資源とは、資源のない日本では技術を指します。この考え方が言葉を変えて「コア技術を重視する」という考え方になったというわけです。

 この理論に従って日本企業は「コア技術」を磨いてきましたし、それによって新商品や新規事業を生み出してきたという実績もあります。しかし、私の認識は、その考え方が昨今は通じなくなりつつあるということでした。

 分かりやすい例えにテレビの「ブラウン管」があります。かつて、ブラウン管をコア技術とするメーカーが多数ありました。では、ブラウン管の技術を大事にして今を生き延びられる会社があるでしょうか。ご承知の通りテレビは技術が根本から変わりました。結果、ブラウン管をコア技術として事業展開できたメーカーは皆無です。

 そのことが分かっていたので、私はA所長にどのように話そうかと迷ったのですが、「確かにそうですね。では、コア技術にはどのようなものがありますか」と私はA所長に尋ねることにしました。