「現在走っているテーマを評価しているのですが、形骸化していましてね」と会議の席で発言したのはA部長でした。議題は、会社で実施しているテーマの継続可能性評価について。その会議には私とA部長を含む数人が参加していました。
その会社では年に1度、テーマの進捗などを評価して、そのテーマを継続するか否かを決めていました。しかし、評価があまり良い形で運用されておらず、「全部継続する」という結論になりがちでした。
「全部継続する」というのは一見良いように思えるかもしれません。しかし、そうでもないというのが会社での評価です。というのは、継続するテーマの中には本来続けなくてもよいテーマも含まれていると見ていたからです。やめたほうがよいのに続けてしまうのが問題だったようです。
いわば「ゾンビテーマ」です。新聞などでも「ゾンビ企業(本来生き残れないが国の補助金などで生かされている会社)」のことが語られていますが、まさにゾンビという言葉がピッタリなテーマがあったようです。
「ゾンビテーマなんかやめればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、それほど簡単な話ではありません。なぜならそのゾンビテーマは一見すると良く思えるからです。
どういうことかといえば、この会社では毎年評価を行い、その結果が「良い」と判断されているために続けているからです。つまり、ゾンビテーマであっても「継続」という評価を経ているので「良いテーマ」なのです。A部長が疑問に思ったのは、まさにこの点でした。すなわち、「評価尺度(物差し)が間違っているのではないか」という指摘です。
A部長はゾンビテーマとそれ以外が区別され、ゾンビテーマには低評価が付くような物差しをイメージしたのでしょう。そうすればゾンビテーマをやめられる。それで冒頭のような相談になったというわけです。
ゾンビテーマをやめられるのか
この相談を受けて私は思案していました。というのも、この手の話はそれほど単純ではないからです。多くの人には、会社の物差しに問題があるという思い込みがあります。「物差しが悪いからゾンビテーマが明確にならないのだ」という思い込みです。
そこで、会社で新たに物差しを作ろうと考えます。そして、それを作ってくれるコンサルタントなどを求めます。しかし、私はそれがうまくいくとは思っていませんでした。
「きちんとしたテーマとゾンビテーマを分けたいという意図ですよね」と私が確認すると、A部長はうなずきました。「では、本当にゾンビテーマをやめてもよいのですね」と私が尋ねると、A部長は困った表情になりました。「本当によいのかな……」と考えあぐねる感じになったのです。
実はこのA部長の表情は、私には予想通りの反応でした。というのも、会社内にはさまざまなステークホルダー(利害関係者)がいるため、A部長の一存で決めるわけにはいかないだろうと思っていたからです。
技術者の立場で考えれば容易に分かるでしょう。ゾンビテーマを識別する物差しができたときには、ゾンビテーマが明確になるわけです。そうすると、技術者に「あなたのテーマはゾンビテーマです。やめてください」と非常な宣告が行くことになります。技術者からの反発は必至でしょう。
反発するのは技術者だけとは限りません。きっとテーマを依頼した営業も反発します。「ゾンビテーマです。やめてください」と言われれば、「そんなことはない。買ってくれる顧客はいる」と大声で反論するに違いありません。
そう、問題は物差しだけのせいではないのです。ゾンビテーマを識別する物差しが切れ味鋭くテーマを評価・分類したとしても、問題は解決しません。上記のようにステークホルダーが反発するのは目に見えているし、もしも誰かの独断でテーマをやめようとすると、反発する人のモチベーションの低下などを招いてしまいます。
ではどうすればよいのでしょうか。