
今回はクライアントへの助言内容をテーマにすることにしました。実は頻繁に話題になるので、読者の皆さんの会社でも起こっているのではないかと思いました。役に立つ情報だと思うので、今回のコラムではその話をします。
まず、クライアントで起こったことを紹介しましょう。研究開発部長のAさん(以下、A部長)と私でテーマの編成について協議していました。大企業で技術者は100人ほど在籍しています。そのため、研究開発テーマが多数あるのですが、その取捨選択が問題でした。取捨選択というと、たくさんやりすぎてしまっているので捨てなければならないという状況を思い浮かべるかもしれませんが、実態はその逆です。
というのも、A部長が統括する研究開発部門で実施しているのは、事業部(営業)から依頼されたテーマだったのです。事業部からの依頼なので一般的に見て実施する必要性が高く、捨てられるテーマは多くありません。「やらないと怒られてしまう」テーマが多数あるという状況でした。
やらないと事業部に怒られるのでやらざるを得ないのですが、では「それで儲(もう)かるのか」といえば、それは分からないという状況でした。A部長の手元には、テーマの一覧表やテーマの詳細(技術開発の目標や計画、採算性)の情報はあったのですが、テーマが本当に儲かるのかどうかについて検証された情報はありませんでした。
正確に言えば、テーマの採択段階できちんと企画書は作られていたので、儲かるか否かの検証はなされているはずでした。それを判断できる企画書のフォーマットはありました。そしてフォーマット内に文章が埋められており、承認の印鑑も押されていたのです。
儲かる形は整っていても……
形は整っていました。しっかりと検討された文書が残されていたことからそれは明らかです。しかし、どうもA部長をはじめとして関係者全員がしっくりきていないのです。なぜなら、同じようなことを数十年繰り返して売り上げ面では成長したものの、すっかり利益の出ない体質になってしまっているからでした。
図のような企画書の仕組みがあるので儲かるはずでした。しかし、現実には「儲かりそうにない」テーマが多いという状況だったのです。A部長を悩ませていたのは、まさにこの仕組みにあったのです。
しかし、A部長と私の会議で議題に上がったのは仕組みの話というよりも「Go/Stop」の判断でした。
「儲かるテーマはGo、儲からないテーマはStopとしたいのですが、やめられないのですよね」とA部長は暗い表情でつぶやきました。A部長の思いとしては、テーマを続けていても儲からないからやめるのがよいのではないか、そして、やめるのは自分だと思っていたようです。
確かに、テーマの進捗管理といえばステージゲート法が思い浮かびます。ステージゲート法は所定の基準をクリアすればGo、クリアできなければStopを判断するもの。そのため、Go/Stopという型通りの判断が必要だと思うのも一般的には理解できます。
しかし、A部長の言葉を聞いて、私が考えたのは型通りのGo/Stopの話ではありませんでした。これには経験の蓄積があったからです。
コンサルタントである私は、さまざまな背景を持つ会社から相談を受けます。その中でも、Go/Stopでの判断を徹底する会社からの相談が多いのです。そうした相談の中で典型的かつ深刻なのは、「ゲートを厳しくしてStopさせる案件を増加させたら、テーマがなくなってしまった」というものです。テーマがなくなるだけならばマシなのですが、私が深刻だと感じたのは「社員のモチベーションが大幅ダウンした」というコメントが多く寄せられたことでした。
「なぜ社員のモチベーションが下がるのか」と思うかもしれません。Stopの意味は判断者の部下(担当者)にとって「自分の担当テーマ(仕事)を誰かの判断で奪われること」です。担当者から見れば、判断した誰かを悪く思ったり仕事を奪われたことを恨めしく思ったりするのはよくある話ではないでしょうか。