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 半年後、楽天がいよいよ携帯電話事業に参入する。「投資額が少なすぎる」との見方もあるが、大手3社とどう戦うのか。秘策は主戦場のネットで培った、クラウド技術の全面採用にある。

 「携帯電話業界のアポロ計画だ」。楽天の三木谷浩史会長兼社長は2019年2月27日、スペインで開かれた世界最大の携帯関連見本市「MWC19バルセロナ」で今秋に参入する携帯電話事業をこう表現した。人類で初めて月に降り立った歴史的プロジェクトになぞらえ、既存事業者との違いを強調した。

 これまで楽天は「仮想移動体通信事業者(MVNO)」としてNTTドコモなどから回線を借りて格安スマートフォン(スマホ)事業を展開してきた。19年10月以降は基地局などの通信インフラを自ら所有する「MNO(携帯電話事業者)」に変わる。

1年で商用サービス開始へ

 ソフトバンクが06年に総額2兆円規模を投じて英ボーダフォン日本法人を買収してから10年あまり。最後発である楽天の携帯電話事業の構想は3つの点から異例ずくめといえる。

 1つはコストだ。楽天は25年までに基地局整備などに最大6000億円を投じる計画を明らかにしている。既存の通信会社と比べて、半分程度の額とされる。主に4G向けのソフトをアップデートするだけで5G向けに転用できるとみており、5G関連の投資額も既存の通信会社より7割削減できると期待する。

 もう1つはサービス開始までのスピードだ。楽天は17年12月に携帯電話事業への参入を決め、翌年末に基地局の建設を始めた。それからわずか1年程度で商用サービスを始める予定だ。19年2月には、本社を置く東京・二子玉川周辺で利用者同士をつなぐ実証実験に成功した。

 これに先駆け18年11月にはKDDIと業務提携した。KDDIの通信ネットワークを借りるローミング(相互乗り入れ)協定を結び、19年10月の開始当初から全国で4Gサービスを提供できるめどが立った。協定の期間は26年3月末までで、その間に楽天は自前のネットワークを構築して順次移行する。逆にKDDIに対しては、楽天の決済網や物流網を提供する。

従来の携帯電話システムと楽天の仕組みの違い
従来の携帯電話システムと楽天の仕組みの違い
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仮想化でハードとソフトを分離

 常識破りの3つめはシステム戦略だ。一言で表現すればネット企業流。ハードからソフト、システム開発の技術や方法論まで、EC事業などで培った最新のテクノロジーを応用する。

 「楽天の携帯電話システムはクラウドネイティブだ。我々が今まで培ってきたITやネットワークの技術をそのまま使える」。三木谷会長はこう断言する。仮想化技術により1台のサーバー上で複数のアプリケーションを動かしたり、複数のサーバーをあたかも1台であるかのように運用したりする。ハードとソフトを分離することで、物理的なサーバーに依存しないシステム構成を可能にする。