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 楽天がグループ横断のクラウド基盤の全社展開を進めている。AI(人工知能)も組み合わせ、出店者の支援やマーケティングに磨きをかける。屈指の規模を誇るサービスからデータを集め分析して、全社で活用する好循環を狙う。

 「楽天グループの力を引き出すため、5年、10年先を見据えて設計している」。テクノロジー部門のCTO(最高技術責任者)を務めるタリア・マルティヌッセン常務執行役員は全社横断のクラウド基盤システムについてこう強調する。

 楽天はクラウド基盤システムをグループの総合力を引き出す切り札と位置付ける。楽天の各サービスを通じて集まるデータを一元管理して分析。「事実を表すデータを分析して、付加価値の高いインサイトへと進化させる」(平井康文副社長執行役員)。分析結果はセキュリティーに配慮しながら全社横断で使えるようにする。

 楽天が全社横断のクラウド基盤の構築に踏み切ったのは2010年ごろ。ITインフラやデータ管理の仕組みの重複を無くしてサービス開発やシステム運用を効率化するためだ。

 同社の歴史はM&A(合併・買収)の歴史ともいえる。祖業の「楽天市場」から業態を急拡大し、巨大な楽天経済圏を構築した。その結果、ITインフラやデータ管理の仕組みは事業ごとに縦割りとなった。事業の立ち上げや成長のスピードを優先し、個別最適の弊害にはある程度目をつぶった結果だった。

 1997年の創業から10年以上が過ぎたのを機に、楽天は縦割りの打破に動いた。各事業の経営基盤が拡充するにつれて、事業同士の連携を強める重要性が増したからだ。

 楽天のサービス数はECや銀行、証券、クレジットカード、旅行予約、電子書籍など70以上。対話アプリ「Viber」などを含めるとサービスの利用者数は全世界で約13億に上る。楽天のサービス利用者のうち、2つ以上を使う割合は約7割に達する。国内ネット企業としては屈指の規模を誇るサービスとデータをフル活用して、利用者が複数の楽天のサービスを使うクロスユースを促す狙いだ。

データセンターは世界6カ所

 楽天のクラウド基盤は大きく2階層から成る。データ活用を担うのが「ホリゾンタル・プラットフォーム」(マルティヌッセン常務)と呼ぶ層だ。検索エンジンやデータ、ID管理などが該当する。この基盤上で、それぞれの事業固有のアプリケーションを動かす。

楽天が構築するクラウドプラットフォームの仕組み
楽天が構築するクラウドプラットフォームの仕組み
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 ITインフラ層はデータセンターやネットワーク、サーバー群から成る。同社は日本と北米、欧州に合計6カ所のデータセンターを設けている。マルティヌッセン常務は今後もビジネスの成長スピードに応じてデータセンターを増やしていく方針を示す。設置場所は南米などが対象になりそうだ。自前の施設を使うのを基本に、パブリッククラウドも併用する。