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どっちもいいから

「欧州案からは、欧州らしい『強い固まり』みたいな印象を受けますね」

「うん、さすがだな。でも、あのデザインでは実際のクルマは造れんぞ。実現性の面ではさすが和光案はそつがない」

「いや、なかなかの完成度です」

「うん、かなりいい」

「で、どうしましょう」

「うん、どうしよう」

 松本をはじめとする「審査員」たちは、迷いに迷った。どちらにも捨てがたい魅力があるのだ。

 そして、判定は下る。引き分け。試合は延長戦に持ち込まれることになった。全身全霊をもって和光案を作り上げた岩城は、その細身にむち打ち、さらに完成度を目指す。彼の脳裏にあったのは、強いインパクトを感じた欧州案だ。その長所を積極的に取り込もうと、懸命に修正を加えていった。

 そして、2回目のコンペ。和光組は欧州案から「強さ」を吸収し、欧州組は和光案から「実現性」を学んで盛り込んでいた。互いの利点を取り込みつつ弱点を克服したのだから、良くならないわけがない。

 審査員たちも驚いた。あれだけ完成度の高かった両案が、さらに完成度を上げてきたのだから。

「良くなったな」

「良くなりました」

「もう1回コンペやれば、もっと良くなるかもな」

「かもしれません」

「じゃあ、やるか」

「え?」

 わずか半年の間に3回のデザインコンペ。まさに前代未聞の決断だった。