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この線が素晴らしい

「今度が最後。次のコンペは両案のモックアップを欧州に持ち込み、実際に欧州の消費者に見てもらう。その評価を勘案し、今度こそ勝敗を決する」

 この意向を聞いて愕然(がくぜん)としたのは岩城だった。一発勝負だと思ったから、一生懸命やった。もう一度と言われたから、最後の気力を振り絞って頑張った。で、もう1回? それはないよ。だからといって、負けるわけにはいかない。絶対に。その気持ちだけが彼を支えていた。

 欧州に駐在していた山岸政彦は、その様子を人ごとながらも感心して眺めていたという。

後にフィットの開発に加わる山岸政彦氏
後にフィットの開発に加わる山岸政彦氏
(写真:栗原克己)
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「あれはすごかったですよ。まさに切磋琢磨(せっさたくま)っていう感じ。回を重ねるごとに両方ともどんどん良くなっていく。いいクルマを造っているなぁって、うらやましく思ったものです」

 まさか自分がその渦に巻き込まれることになろうとは、当時の彼は予想だにしていなかった。