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ついに出た「神の指」

 こうして、山ごもりでひねり出したアイデアを次々に投入していく。だが、目標の馬力と燃費をクリアすることはできない。いよいよ、残された手段は少なくなってきた。

 そのころ中山は、粘土を指でなぞりながら最後の抵抗を続けていた。指の微妙な感覚で、技術の壁を打ち破ろうというのだ。

「粘土を付けて、指で形状を調整していくわけです。燃焼室はこうやったらよく燃えるんじゃないか、空気の気持ちになって、ポートの形状はこうした方がよく流れるんじゃないか、なんて考えながら。もちろん、シミュレーションはやりますよ。でも、最後は指の感覚ですね。また社内には、そういうことが得意な人間がいるわけです。私の上司には、神の指と呼ばれる人がいまして、指の感覚だけで、それはもう、すごいポートを造る。F1でもよくあるんです。エキゾーストのパイプを老練の職人が手で曲げて造る。どっかのメーカーがシミュレーションを駆使して造ったものを持ってきても、やっぱりうちのおじいちゃんが造ったやつの方がいいや、ということになる。まだそうした世界が残っているんです。クルマづくりには」

 まさに神頼み。しかも、ほぼ確実に御利益がある。ところが、この方法には大きな問題があった。指で作った微妙な形状を図面に落とし込むのが難しいのだ。図面に落とせないものを量産できるわけがない。

「これをやるとき必ず待っているのが設計部隊との戦いですね。もちろん彼らは『できない』と言う。でも、できなければ性能は出ないわけです。それを脅しのネタに粘りまくる。結局は設計が折れて、泣き寝入りということになるわけですが。泣き言を言いながらも造ってくれる。だからこそ、ここまでやってこれたわけです」

 そして2000年秋、エンジンは完成する。最高出力は85馬力、燃費は23km/Lだった。