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乾坤一擲(けんこんいってき)の決起集会

 コストが上がれば価格も上がり、販売台数も減る。その結果、1台当たりに割り振られる開発コストは増し、部品調達コストも上昇する。そして、さらにコストは増えてしまう。まさに悪循環だ。

 そんな理屈は松本も十分に分かっている。だが、妥協はしたくはない。そのジレンマを解消する方法として彼が目を付けたのは、部品価格の低減だった。もちろん、質を落として安くするのではない。高品質のものを安く調達しようというのだ。

 彼は、開発の早い時期から積極的に部品メーカーに対し、部品コストを低減すべく交渉・議論を続けてきた。だがここまで、芳しい成果はあまり上がっていない。

 発売まで1年を切った2000年夏。ついに彼は勝負に出た。系列外を含めた部品メーカーを集め、大決起集会を開いたのだ。会のメーンイベントは試作車の披露。社外秘であるべき次期新型車をこの時期に紹介するのは、異例中の異例といえる。その異例ぶりをあえてアピールし、ホンダの並々ならぬ意欲を部品メーカーに見せ付けようというわけだ。

 「何としても売れるクルマだということを分かってほしかった」のだと、松本の上司である本間日義はいう。

軽自動車とコンパクトカーの開発企画を統括する本間日義氏
軽自動車とコンパクトカーの開発企画を統括する本間日義氏
(写真:栗原克己)
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「部品メーカー自身が、台数が確実に出ると確信し、それを前提にしてコストを試算してくれれば、量産効果で部品の価格は下がる。でも、口でいくら『たくさん売れます』と言ったところで信用はしてもらえません。いつも言ってることですからね。今度こそと言っても、まぁ信じてもらえない。それなら、実際に実物を見てもらおうと考えた。『これはいける』と部品メーカーに感じてもらわないことには始まりませんから」