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 建物内の防犯カメラや警備員の場所を、ドローンを使って建物の外から特定する――。そのようなことを可能にする方法を、カナダのWaterloo(ウォー タールー)大学の研究者らが発表した。その名も「Wi-Peep」。Wi-Fi(無線LAN)とpeep(のぞき見する)を組み合わせた造語だ。

 Wi-Peepに使う装置の重さはおよそ10gで市販のドローンに搭載可能。材料費はわずか20ドル。誤差50cm~2m程度の精度で監視カメラなどの場所を特定できるという。

 スパイならぜひ知っておきたいWi-Peep。その正体を解説しよう。

Wi-FiでWi-Fi機器の場所を調べる

 「防犯カメラや警備員」と書いたが、実際にはWi-Fi機器の場所を特定する。防犯カメラはWi-Fi対応、警備員はスマートフォンなどのWi-Fi機器を携帯しているのが前提だ。

 Wi-Fi機器の場所を特定されると、他にもリスクがあると研究者らは指摘している。その1つが空き巣である。

 事前に何度か調査して、ある家で使われているWi-Fi機器の機種や場所を特定しておく。そして、スマホなどの携帯機器が見当たらなくなったら家に人がいないと判断して侵入する。ノートパソコンなどの高価な品物の在りかを探すのにも使えるという。

 ホテルの経営者などが、競合他社を偵察するのにも使えるとしている。Wi-Peep装置搭載のドローンをライバルのホテル上空に飛ばして、Wi-Fi機器の場所や数から部屋の稼働状況を調べられる。

 Wi-Peepの概要は次の通り。まずドローンに搭載されたWi-Peep装置が、細工を施したデータ(パケット)を送信する。それを受信したWi-Fi機器は一定時間が経過した後、確認応答(ACK)を返す。なおここでの「一定時間」はSIFS(Short Interframe Space)と呼ばれ、2.4GHz帯を使うWi-Fiは10マイクロ秒、5GHz帯は16マイクロ秒と決められている。

「Wi-Peep」の概要
「Wi-Peep」の概要
(出所:論文「Non-Cooperative Wi-Fi Localization & its Privacy Implications」)
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 確認応答が返ってくるまでの時間から、ドローンとWi-Fi機器の距離を計算できる。ドローンの位置は全球測位衛星システム(GNSS)で分かるので、ドローンを移動させながらデータの送信と確認応答の受信を繰り返せば、Wi-Fi機器の場所を特定できる。

Wi-Fiの「礼儀正しさ」を悪用

 ここで重要なのが、同じネットワークに接続していない機器からのデータに対しても、Wi-Fi機器は確認応答を返すということ。ネットワークを暗号化していても、ネットワーク外の機器から受信したデータに対して確認応答を返してしまう。

 Wi-Peepの研究論文の筆頭著者であるAli Abedi(アリ・アベディ)氏はこの挙動を発見し、「Polite Wi-Fi(礼儀正しいWi-Fi)」と命名。2020年11月にその研究論文を発表した。見知らぬ人からのあいさつでもきちんとあいさつを返すので「礼儀正しい」としたのだろう。アベディ氏によると、これはWi-Fiの規格(IEEE 802.11規格)の問題だという。

 アベディ氏がベンダー186社の5000を超えるWi-Fi機器で調べたところ、全ての機器が確認応答を返したという。

小型かつ軽量な装置を実現

 Wi-Fi機器の場所を特定する研究は多数行われており、高精度で特定する方法も多数存在する。ただ特定するための装置は大がかりになり、「ドローンに搭載して、相手に気づかれないように調べる」といったことは難しいようだ。

 だが今回開発されたWi-Peep装置は小型かつ軽量で、市販のドローンに搭載できる。冒頭で書いたようにわずか10g。費用も20ドル程度だという。