デジタル技術の急速な進展を受け、情報処理推進機構(IPA)のトップとしてDX(デジタル変革)の指針などを示してきた富田達夫氏。企業の経営者向けに指標やガイドラインをまとめ、ITリテラシーの普及にも取り組む。セキュリティーや人材育成でも課題を見極め、推進のための施策を講じている。
(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、西村 崇=日経クロステック/日経コンピュータ)
2016年に情報処理推進機構(IPA)理事長に就任して以降、「DX(デジタル変革)推進指標」や、「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」など企業の経営者向け施策を積極的に進めてきました。どのような問題意識があったのですか。
一言で言えば「経営者が勉強しない」ことへの危機感です。私も企業経営に携わりましたが、多くの企業経営者は毎年業績の数字を問われて会議に奔走し、夜は宴会、土日はゴルフといった生活で、学ぶ時間がほとんどありません。ソフトバンクグループ会長の孫正義さんのようなトップ級の経営者と話すとさすが勉強されていると感じますが、こうした経営者は残念ながら日本には少ない。
今、企業はまさにトランスフォーメーションを起こさなくてはいけません。単に計算機を入れればよかった時代ではなく、今はデジタルをどう使っていくかが問われる時代。経営者にこそITのリテラシーが求められます。
時間を捻出するのが難しいと考える経営者もいるのでは。
何も高度な専門教育を求めているわけではありません。今は分かりやすくて経営者が勉強するのにふさわしい本がいくらでもあります。ほんのちょっと朝早く会社に来て、メール整理の前に読むなどして、デジタルやセキュリティーを概念としてではなく、リアルに分かってくるような勉強をしてもらいたい。