2023年3月10日から映画「Winny」が全国公開される。不特定多数のユーザーがパソコン間でファイルを共有するP2P(Peer to Peer)ファイル共有ソフト「Winny」を開発・配布した金子勇氏が、2004年に著作権法違反ほう助の容疑で逮捕され、7年を経て2011年の最高裁判所判決で無罪を勝ち取ったという、実際の事件をテーマにした映画だ。
Winnyは東京大学大学院助手だった金子氏が2002年に開発。他のファイル共有ソフトと比べて匿名性が高く、国内を中心に多くのユーザーを獲得した。一方、映画や音楽などの違法アップロードが多発した他、2004年ごろにはWinnyを介して感染するマルウエアによって、企業が保有する個人情報や機密情報が漏洩する事件が相次ぎ発生した。同年5月、京都府警が金子氏を著作権法違反ほう助の容疑で逮捕したことで、IT技術者から「ソフトウエア開発の現場が萎縮するのでは」といった懸念が出るなど議論を呼んだ。
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(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、長倉 克枝=日経クロステック/日経コンピュータ)
映画「Winny」の製作を古橋さんが企画した経緯は。
古橋氏:2018年2月に東京・六本木で開催された「ホリエモン万博」というイベントの中の「CAMPFIRE 映画祭」に、作品を出してみないかと知り合いに誘われたのがきっかけです。僕は自ら会社を経営していることもあり、事業やサービスをつくる人をフィーチャーした作品をつくりたいと考え、調べていた時に金子さんの名前が出てきました。実は、2013年に亡くなられていたことも、その時に初めて知りました。
金子さんが逮捕されたことは覚えていましたが、その7年後に(最高裁で)無罪が確定したことの報道はそれほど多くなく、当時の文献や映像もあまり残っていませんでした。それならフィクションでもノンフィクションでもいいので「Winny」というタイトルで映画をつくれたらと考え、企画コンペのために90秒くらいの動画を作り、それで優勝して始まったのが映画「Winny」の企画です。
Winnyというテーマ自体、映画業界にとってもかなりセンシティブな話だったのでは。
古橋氏:Winnyは映画やゲームのファイルが(違法に)共有されていたこともあり、当初は映画業界の方々を含めて(映画化には)あまりポジティブではないと感じました。それもあり、フィクション寄りにしようかと話をしていたくらいです。(企画を始めてから)3年くらいは劇場公開できるか分からなかったのですが、Winnyの公開から20年がたち、(映画として)出せるタイミングになったのではないかと思います。
松本氏:2018年に(「Winny」の監督の)お話が来たのを覚えています。もともとWinnyのことは知らなくて、(2018年の)「CAMPFIRE映画祭」で古橋さんの企画を観客として聞いていました。その時に初めてWinnyと金子さんのことを知りました。
それから監督のお話をいただいて。その時点でフィクション性が強い脚本があったんですが、まずはWinnyや金子さんについて、当時実際何があったのかを知りたかったので、自分なりに調べました。その中で、やはり当時のことを(フィクションではなく)実話として描きたいという気持ちが強くなり、古橋さんとプロデューサーに相談して、快諾してもらいました。