新型コロナのパンデミックに見舞われた日本の感染症対策を提言する専門家集団をまとめた、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長。日本の対策を「準備不足だった」と振り返り、IT活用も含めた事前の制度設計が不可欠と指摘。感染症法上の位置付けが「5類」となり平時に向かう今こそ、次に備えて議論すべきと強調する。
(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、玉置 亮太=日経クロステック/日経コンピュータ、外薗 祐理子=日経クロステック/日経コンピュータ)
日本のここまでの新型コロナ対策をどう振り返りますか。
日本は全体として準備不足だったと思います。2009年に新型インフルエンザのパンデミックがありました。収束後の2010年6月、新型インフルエンザ対策総括会議がとりまとめた報告書には、次のパンデミックに備えて何をすべきかを書いていました。しかし政権交代や自然災害もあり、その提言はほとんど実行されませんでした。
日本の新型コロナ対策は準備不足というハンディキャップを背負って始まりました。しかし欧米などと比べると、これまでのところ人口100万人当たりの死亡者数は低いのです。
世界的に見て、日本が死亡者数を低く抑えられているのはなぜですか。
私は3つの要因があると思います。第1にもともとの衛生意識の高さも含め、国民が感染予防や感染拡大防止に協力してくれました。第2に、特に医療関係者や保健所の人たちが夜を日に継いで頑張りました。第3に、国や自治体が、感染レベルが高くなると感染対策を強化し、感染レベルが低くなると対策を少し緩める「ハンマー&ダンス」で柔軟に対応してきました。
つまり、全体としての準備不足を属人的な努力で補ったことになります。その分、社会経済活動や教育活動などには負担がかかってしまいました。
情報を生かす視点が欠如
ワクチンも薬もないときの感染症対策は人同士の接触をできる限り抑える以外にないので、社会経済活動は一定程度制限せざるを得ません。そうした制限を極力減らすにはICTをはじめとする科学技術を活用すべきであると我々は考え、2020年4月1日の専門家会議の提言書にはICTの活用を盛り込み、それ以降も提言してきました。