通信料金と端末代金の完全分離で激震の携帯電話業界。ソフトバンクは新ルールをどう受け止め、ライバルのNTTドコモやKDDI(au)、新規参入の楽天モバイルとどう戦っていくのか。宮内謙社長兼CEO(最高経営責任者)に業績への影響や今後の戦略を聞いた。
2018年12月の上場後、気持ちの変化はありましたか。
やはり上場すると、責任の重さが全く違います。株主をはじめ、アナリストやマスコミの方々が常に注視しているので気が引き締まり、常に事業戦略を考えるという点でも非常によかったと感じています。
2019年6月の株主総会では厳しい意見が相次ぎました。
2019年3月期は好業績で終わり、2020年3月期もヤフー子会社化で増収増益が確実に見えている状況です。しかし、株価が公募価格を下回った点は非常に重く受け止めています。株価についてはお約束できるものではありませんが、業績はきっちり伸ばしていきます。我々の戦略が間違っているわけでなく、ちゃんと継続していけばいつかは(株価に対する不満を)払拭できるだろうと思っています。
上場前には「NTTドコモショック」(料金下げの表明)もあって、公募価格についてはかなり厳しめな設定だったと思います。直前に通信障害を起こしてしまい、悪材料が一斉に出たタイミングでの上場でした。
その後も競合他社から新料金プランが発表されました。我々は微修正で対応できることが証明されたわけですが、今度は改正電気通信事業法に向けた新ルールが出てきました。我々はある程度織り込み済みでしたが、センセーショナルな報道が出るので、どうしても上値が重い展開になります。株価についてはもう少し長い目で見てもらわないといけないだろうなと思っていますけどね。
料金プランは微修正で対応、最大1000円ならもらわなくてもいいかな
総務省の有識者会議で端末購入補助や違約金に上限を設ける方針が決まりました。「織り込み済み」とのことですが、料金プランは見直すのでしょうか。
具体的な水準はともかく、端末購入補助は韓国で上限を規制した実績があり、違約金についても最大1000円であればもらわなくていいかなという水準ですが、下がることは想定していました。料金プランを大幅に見直すことは考えておらず、微修正で対応できる予定です。
業績への影響は。
確かに最初は減収の影響も出てくると思いますが、ダウンサイドとアップサイドの両面があるとみています。価格競争に関して言えば、ある意味で少しやり過ぎのきらいがありました。6万円や7万円の端末購入補助が最大2万円になると、販売台数が減る懸念はありますが、その部分でのアップサイド(端末購入補助の削減による利益押し上げ)が出てきます。
端末については、原点に戻らなければいけないと考えています。ローエンドからミドルレンジ、ハイエンドまでラインアップを徹底的に追求していきます。これまで端末メーカーは米アップル(Apple)の価格をターゲットにしてきたような面があります。価格はアップルより少し安いが、どのメーカーもハイエンドが高い。しかし、これからは新たな視点で安価な端末や中間の端末を考えていかざるを得ないと思います。
現実に米グーグル(Google)の(1世代前の機種である)「Pixel 3」については、もっと安価な端末を出してほしいと粘り強く要望してきました。当然、価格が10万円以上でも買いたいという人はいます。それとは別に「この機能だけで十分だから2万円の端末で構わない」「もうちょっとこの機能が欲しいから4万円の端末にしよう」といった動きが加速するはずです。これはチャンスと捉えています。
メーカーとの共同開発を強化していくということでしょうか。
昔のようにコンテンツまで含めて一緒に開発という時代ではありませんが、Android系の端末については数社のメーカーと話し合いを進めています。別に安い端末だけが欲しいわけでなく、メーカーにはとにかく差異化できる製品を開発してほしいと常々お願いしています。
今後は端末ラインアップの競争になっていくと思います。その意味では、我々にとってはボーダフォン日本法人を買収して携帯電話事業に新規参入したときと同じです。当時はメーカーと一緒に議論しながら、さまざまな端末をそろえました。ところが、スマホ中心の時代となって変わってしまいました。こういうものを作ろうという部分が少しなおざりになっていたかもしれません。
ソフトバンク独自の端末は登場しそうですか。
もちろん、端末を独占で提供できれば一番強いですが、かなりの調達数をコミットしなければいけなくなります。それができるかどうかですが、そういう時代ではないかもしれません。