小さなフルキーボードを搭載したスマートフォンで一世を風靡した「BlackBerry」。開発・販売していたカナダのブラックベリー(旧Research In Motion)は2010年度に約200億ドル(約2兆1500億円)近い売上高を記録したものの、iPhoneやAndroidの台頭で市場シェアを失い業績が急降下。2016年に端末の販売から撤退した。セキュリティー企業に転身した同社を率いるジョン・チェン執行役会長兼最高経営責任者(CEO)に、立て直しの一手を聞いた。
(聞き手は白井 良=日経 xTECH、編集は玉置 亮太=日経 xTECH/日経コンピュータ)
おそよ10年前まで、ブラックベリーはスマートフォンの代名詞的な存在でした。2008年の米大統領選で候補だったバラク・オバマ元米大統領が頻繁に操作していたことも話題になりました。なぜ端末事業から撤退するほどシェアを失ってしまったのでしょう。
世間からスマートフォンの会社だと認識されていたころ、私はブラックベリーにはいなかったが、外部から見ても勢いのある会社でした。大手企業のビジネスパーソンは誰もがBlackBerryを欲しいと思っていました。2000年半ばには「クラックベリー」という言葉も生まれたほどです(本誌注:クラックとはコカインを指し、BlackBerryを常に触っている“中毒者”をやゆした造語)。
だが、その後に起きた2つのトレンドに対応しきれませんでした。個人所有するスマートフォンを業務で利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」と、ユーザーが自由に追加して利用できる「一般消費者向けのアプリケーション」です。ブラックベリーは業務用のスマートフォンとして成功していたため、適切な対応を取れませんでした。
2つのトレンドとブラックベリーの方向性には根本的な衝突があったのです。ブラックベリーは業務で使える強固なセキュリティーとプライバシー保護で有名になった企業です。相反するBYODや消費者向けアプリケーションのトレンドに対応できるはずもありませんでした。そうした状況の中、2013年11月に私はブラックベリーのCEOに就任しました。
最初の施策はスマホ端末事業の縮小
CEOに就任してからどういった施策を打ち出したのでしょう。
CEOに就任する前、かなりの時間をかけてブラックベリーのビジネスモデルを学びました。セキュリティーや5G(第5世代携帯電話)を中心に有力な特許を多数保有していたし、多くの優秀な社員を抱えていました。しかし携帯電話端末市場ではシェアを失い、ビジネスは厳しい状況にありました。過去の成功体験から社員が既存事業にこだわる傾向もありました。
結果としてビジネスモデルを変えなければならないこと、財務の改善をしなければならないこと、社員の配置を最適にしつつ士気を高く保たなければならないことが分かりました。最初に実施したのは、スマートフォン端末事業を縮小して、新たな戦略のための人的、金銭的な資本を確保する決断でした。それまでの本業を縮小するのは大胆な施策でしたが、大きな企業なので大きな変化が必要だったのです。